第2話

ステンドグラスから光りがこぼれる部屋に通された。淡い光が部屋を照らし、1つだけおかれている机がキラキラと光る。周りには本がところどころに積まれている。

うっとりとしていると

「すみません、遅くなりました。」

そう言って彼が部屋に入ってきた。お盆には2つのコップ、おそらく朝庭でつんだハーブで淹れた紅茶だ。

「紅茶でいいですか?」

ぎこちない笑顔は前髪で隠れて見えない。

「はい、わざわざありがとうございます。」

そう言ってコップを手にとり、ひと口すすった。温かく、さっぱりとした口当たりだ。ふわり、とミントの香りが部屋を満たしていく。

「美味しいです。」

思わず言葉がもれてしまった。

「それはよかったです。」

その声は弾んでいた。

私はもうひと口飲んだ。


「それで、あなたが日月蒼さんですか?」

ひと息ついて本題にうつる。紅茶はおかわりをもらった。

「あぁ、あなたが部長さんの…。はいそうです。名前も部長さんから?」

「はい、丁寧にふりがなをふってもらったので。」

「あの人らしいですね。」

そうですね、と私は言う。

日月蒼。彼は今日本で有名なクイズ作家だ。アメリカの大学を卒業後FBIを目指すが諦め、日本に帰国。その後クイズ作家として本をだすほどの有名人だ。部長には悪いが、ふりがなをふらなくても私は彼のことを知っていた。

「えっと、なんとお呼びすれば…。」

「たちもりでも、そうでもどちらでもいいですよ。」

「なら、そうさんと呼びますね。」

「こちらこそ、では僕は鈴森さんと呼びますね。…ところで鈴森さん、今回の事件とはいったい?」

蒼さんは前髪を後ろ髪とまとめた。その顔は真剣そのものだった。

私は、コップを置き事件のあらすじを説明する。彼は資料に目を通し、ときおりメモをとりながら私の話を聞いた。

「なるほど、かわってますね。」

話がおわって、彼は言った。

言われてみれば、今回の事件は腐敗しないように防腐剤や樹脂を使う手の込んだものになっている。しかも体内の腐敗も防ごうとするということはこの人物にそうとうな思い入れがあるのかもしれない。

「現場に行ってもいいですか?」

「許可はとってあります。行きましょう。」

私は蒼さんと現場へ向かった。


現場はあまり人にみせていいものではないらしい。だが、部長がもしものためにと思い上とかけあって許可をとってくれた。

黄色いテープをくぐり、現場の前で手をあわせる。隣で蒼さんも手をあわせた。


現場と言ってもチョークでキャリーバッグが発見された位置にしるしがしてある簡単なものだった。どこで殺害されたかは未だわかっていない。

「今は車が通ってるけどほとんど街灯がないですね。」

「はい。ですがここで痴漢などの事件はこれまでおこっていないそうです。おそらく皆さん夜遅くに家からでないんだと思います。」

なるほど。と彼はひと言。

現場をとった写真にはキャリーバッグがおいてえるだけで特に変な様子はなかった。行ってみてもそれはかわらない。


次に私たちは彼女の通う大学に行った。実は被害者は2人とも大蔵病院付属大学の看護科に通っていた。

交遊関係も発見されていない被害者(船堂一香)に昔彼氏がいただけでそこまでこじれたものはなかった。

彼女たちの友達はみんな口々に「嘘だと思った。」「未だに信じられない。」など言う。そして、みんな船堂一香の彼氏が事件に関与していると話した。どうやら皆彼のことを疑っているようだ。

そんな彼は今警察の事情聴取をうけている。

「そういえば、彼は医学科の小児科学部に所属しているんですよね?」

4階の渡り廊下を渡っていると蒼さんが質問する。

「そうです。親が小児科医と看護士をしていて、子どもと関わる機会が多かったらしくそれで小児科の医師を目指そうとしたそうです。」

ちなみに船堂さんとは研修とき知り合ったらしい。

「あと、話はかわるんですが、ここの病院は痛くない注射があるって話題になったんですよ。」

確か数ヵ月前、小児科や血液検査で実験的に使用されており、半年後の実用化にむけて準備がすすんでいるらしい。これからは子供の予防接種に期待がむけられている。

「そんなすごいものが発明されてたんだ。」

蒼さんはどうやら知らなかったらしい。とても驚いた様子だ。まあ、あまりここにいることは少ないから無理もないかもしれない。

「はい。従来の注射は刺していたんですが、それだと一点に痛みが集中して子供や検査の人に強い痛みを与えていたそうです。一方この病院の注射は小さく皮膚をきることで痛みをあたえないそうです。そして、もう1つ面白い注射もとりいれているそうです。」

「それは…」と言葉を続けようとしたとき、後ろから声が聞こえた。

振り向くと青年が走ってきた。普通の大学生より背は少し高く、耳を隠すように伸ばされた髪は綺麗にきりそろえられていた。スクラブを着ているからこの大学の学生だろう。

息を整え彼が言う。

「あなたたち、警察の方ですか?」

「そうですが。なんでしょうか?」

「…そうですか。」

その顔はうかない様子だ。

「お名前を伺ってもいいかな?」

蒼さんが言う。

「あ、そうですね。俺は草場忠史と言います。」

「安心してください。草場くん、事件は解決させますが、もしなにかあったら警察や僕に連絡をください。」

蒼さんが優しく微笑む。彼はそれを聞くとほっとしたのか一礼をして来た道を戻っていった。

「彼は彼女となにか関係があるんですか?」

私は配られた資料をめくる。彼の名前は彼女の研修先のチームに書いてあった。

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紅茶とパズルと事件手帳(仮) 華夏 @py4zgr

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