エピローグ
エピローグ
「トライシオンの計画は失敗したようですね」
闇の中、その日の円卓に集まったのはほんの数名ほど。
事も無げに伝えた司祭は間者からの報告書に目を落とし、続きを読んだ。
「トライシオンはアーノルド現国王暗殺の首謀者として捕まったようです、こちらに不審が向けられることはないでしょう。良くて幽閉、王の心次第では処刑も免れません」
室内に居る者たちは誰一人喋らず、その報告を聞く。時折小さな嘆息が生まれては消えていく。
「その……ひとつ、お伝えし辛いことが」
室内に緊張が走る。
円卓の最奥に座している男の眉が神経質そうに動いた。
「申せ」
「城に侵入していた黒の子ですが……戴冠式の最中アーノルド現王を庇って傷を負い、その後行方が知れません」
恐る恐る伝える司祭の言葉に、男は大きなため息をついた。
「知っている、その場に居たのだ」
「礼拝堂で白の御使いが治療をしたという報告があります、生きてはいるということなのですが……」
それから司祭は黙り込んだ。
何かを提言するという雰囲気ではない。喉元を締め付けられているような重苦しい空気の中、全員が固唾を呑んで男の言葉を待った。
「……生きているならば連れ戻すまで。行き場所など無いのだ、そう遠くへ行くこともなかろう。とにかく次の手を打つ」
「次の手、と言いますと」
男の発言に司祭が戸惑ったように尋ねる。
「王になったから何だというのだ、あの玉座に座るべきは神の代弁者である私だ。そのためにも小僧の死と、黒の子は無くてはならない」
男が口元に禍々しい笑みを浮べた。
「全ては神の言葉たる碑文が示している。今回は運が悪かったと思えば良い。直ぐに奴の死に目を見届けてやればよかろう」
低い声で笑いながら男が立ち上がった。
「赤の御使いを呼べ、次は私が直に指揮を取る」
「承知いたしました、カランバノ教皇様」
立ち去る男――カランバノの背に司祭が起立し頭を下げた。
開け放たれた扉から吹き込んできた風が、室内の灯かりを吹き消す。
カランバノの退室と共に、部屋は闇に包まれた。
Baldwin Memoria 雪本歩 @ayumu_snnb
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