そういうときもあるさ!
滝野遊離
戯け者
とりあえず、旅に出よう。全てに行き詰ったのでとりあえず宣言した。
まあ、特に何も持たなくてもいいかな。全ては思いと願いが解決してくれる。たまにはお金もないと詰むけれど。手元には軽い、というかほとんどすっからかんと言ったほうが正しいような財布の一つしかないけれどきっと大丈夫だろう。浅めの経験とぼんやりとした勘に裏付けられた自信がそう言ってくれているのだから。
お財布と、扇子と、まあなんとなくその辺にあったものをぼんやりと持って。行ってきます。一応鍵を締めてから気がついた。自分、身分証明書ないじゃん。まあそんなこともあるよね、気ままな旅の始まりにはぴったりさ。
とりあえずはいつもの散歩道を通る。季節感に富んだ花々と、澄んだ空がこの日を祝福してくれているみたいだ。見たことのない真白な可憐な花が咲いている。一輪だけ摘んでいこう。花の側へそっとしゃがみ込んで、周りの花には影響を与えないように、ぷつりと摘む。そして鼻元にそっと寄せて、軽く息を吸う。想像力を超えていく、良い香りがする。鼻腔の中で香りを弄んでいると、分かれ道を見つけた。今日は『旅』なんだから、もちろんいつもと違う道に行く。
幼稚に歌を口ずさむ。みふぁーそ、どー。れみふぁ、らー。旋律なんて気にしない。気に入った音やら次に来ると心地よい音を並べる。次には何の音が来ると、この花は喜んでくれるのだろうか。そ? れ? 悩みながらにも次の答えを出していく。間違っていたらあとで直せば良いんだから。
花もきれいで、それに対比するかのように空が青い。感情を揺さぶるような青色。この青色に近づくとどうなるんだろうか。手を伸ばして、前へ進んで、斜め上に歩くと、そこには地面がなかった。崖のようだ――
なんとか、花を持っていない方の片手で崖の縁を掴む。花はかわいいから手放したくないけど落ちたくない。待てよ? 海は空みたいだし地面の空ということでは? ということは落ちてもきっとなんともないのでは。なんて適当なことを言っているうちに腕が限界を迎えてそのまま崖の下に落ちて気づいたら救急車に乗っていた。まあそんなこともあるよね。仕方がないさ。
そういうときもあるさ! 滝野遊離 @twin_tailgod
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