第3話 仮定と実験と。この摩訶不思議なモノをエーテルと名付ける。
03
「あぁ、セカイって綺麗なんだな・・・・・・」
別に気が狂ったとかそういうことではない。
悟りを開いたとかでもない。
俺は昔も今も卑俗な凡人である。
そんな俺でも、視界に広がる情景はちょっとした感動ものだった。
場所は変わらず真っ白な円柱形の部屋の中。
眼球と視神経にエネルギーを通して纏ってみたのだ。するとどうだ。このセカイはエネルギーで充ちているではないか。
蛍のように薄緑の光玉が至る所で揺らめいている。その様子はとても幻想的で、思わず言葉を失うほどだった。
そうそう、体内のエネルギーも緑色に光るモノだった。
試しに右手をコーティングしてみたところ、濃い緑色に光り始めたのだ。
濃い色なのはたぶんずっと体内でエネルギーが凝り固まってたせいだろう。
左手の指で右手を軽く弾いてみれば、なにやらとても堅いモノと接触した感覚を得た。
なので防御力があるのは確定的に明らか。
物語に良くある膂力強化が出来るのかはその内検証しよう。
この部屋で検証するにはちょっとリスクが高い。
「さて、それはそれとして」
エネルギーを目に纏わせていても一向にエネルギーを消費している感じがない。
まぁ、外に放出してるわけじゃないから、ゲームみたいにMP消費して術技使用って感じじゃないんだろう。
たぶん、身体に纏う場合でも消費はしない気がする。
「ついでに、ヤシロも確認して・・・・・・、うん、別になんかエネルギー纏ってるとかもないね」
ちょっとだけ、ちょっとだけ、この目で見ればこの建造物に何かあるか判明すると期待したけど、そんなことはなかった。
「とりあえず、あとなにやろうか」
ごろんと寝転がる。大の字になってぐでぇんと脱力する。
「あとのオヤクソクって言ったら探知とか鑑定とか収納とか、か?」
探知はまぁ、簡単にできるだろう。エネルギーを放出して薄く伸ばしていって生物にぶつかるかどうか調べればいいだけだし。
鑑定は・・・・・・無理じゃねぇかなぁ。エネルギー使ってどうこうするって感じのじゃないし。
収納は亜空間を作って携帯するって考えだと思うが、そもそも亜空間を作るってどんな感じなんだ?
「教師か教本が欲しい・・・・・・」
だが残念、ここにはヤシロ以外なにもないのだ。
「とりあえず一番簡単そうな探知からやるか」
体内のエネルギーを放出して円形に伸ばしていく。
「おぉ? なんか抜けてく感じだ。なるほど。消費してる」
そして、思ったより伸びない。
3メートルぐらいだろうか?
全然実用的じゃない。
「これは、慣れれば遠くまでできるのか?」
できそうな気はする。けどもとても日数がかかりそうな予感もあった。
「もうちょっとこう、別のアプローチのほうがよさげ?」
放出を止めると、外に出していたエネルギーがぷつりと切れた。
「ん? 体内に戻るんじゃなくて、切り離された?」
そして、なんか周囲のエネルギー量が増えた気がする。たぶん、俺のエネルギーが周囲の野良エネルギーに成ったのだろう。
それと、なんかぐわんって感じに頭がぐらついた。貧血っぽい症状。たぶんエネルギー欠乏じゃなかろうか。
慌てて体内エネルギーの残量を調べた。
調べたが減った感じがない。いや、これは、呼吸と一緒に外のエネルギーを吸収して回復した感じだ。
それに、胸のエネルギー溜まりからも絶え間なく生成されている。
「あぁなるほど。急激にいっぱい使わなきゃ大丈夫だなこれ。慣らせばどれだけ使えるかもわかるだろうし」
何となく理解できたのでやり方を変えることにした。
「ソナー方式でとりあえず実験するか」
まずは両手にエネルギーコーティング。で拍手。
音と共にエネルギーが拡散して返ってくる。
「なるほど。音と同じで反射する性質はあるのか。でも、壁に反射して返ってきちゃったから広域探知はできないか」
あと、音のように放射状に拡散するあたり、エネルギーというよりかは粒子なのかもしれない。
いや、あれか。光子と同じか。エネルギーにして物質にして波である。
「光子力学とか、そんな知識持ってねぇぞ?」
そもそも光子とか重力子とかは“あると仮定”してという理論であって実際に存在するという話ではない。
「まぁ、学術的な考証は後で良いな」
とりあえず、このエネルギーにして粒子っぽいものに名付けをしよう。
「エネルギーにして粒子、ねぇ。既存概念で一番近いのは“エーテル”か」
ただ、エーテルという物質は現実に存在する、というか現存する物質にエーテルの名が当てられたことがあるという感じ。
「まぁエーテルって言ってイメージするのは万能元素の方だし、俺がそう呼ぶだけだし、問題ないな」
言い聞かせるように、俺はこれをエーテルと呼ぶことにした。
さて、とりあえず近距離中距離ぐらいならソナー方式で探知できるとわかった。じゃぁ、長距離探知はどうするか。
周囲にエーテルが充ちてるんだ。使わない手はない。
とりあえず周囲のエーテルを認識できるようになればよい。
「ソナーの応用でいけるのでわぁ?」
ソナーは体内のエーテルを放射して反射してくるのを感知、認識して探知作業をしている。
では、体内エーテルを放射して、周囲のエーテルに呼応させればどこまでも探知できるのではないか。
「ということではい実験」
さっきは拍手で放射したが、感覚がつかめたので拍手しなくても放射できる。
そして、呼応させる理論はある程度うまくいった。
「うん。まぁ、扉の向こうも何となく地形がわかったけども・・・・・・」
呼応したエーテルは空洞だけでなかった。
どうやらエーテルはあまねく物質にも宿っているらしい。
つまり、壁の中にも、土の中にも、ありとあらゆる所に。
ということで、脳内に3Dオブジェクトが詳細に形成された感覚だった。
「あぁ~なるほど、どっかの坑道みてぇだなぁ」
通路がいくつかあって、大小様々な部屋もいくつかある模様。
しかも上下立体的な立地だ。山中か地下かの二択である。
「これでゲーム的なダンジョンが正解だったら困るが・・・・・・」
まぁ、考えても仕方のないことだ。
とりあえず、周囲に動くモノも居なければ生物もいないようだ。
といっても、どこまで正確なのかは検証せねばならないが。
「とりあえず、探知はこれでいいな。消費量とか、使用効率は追々でいいだろ」
さて次は属性変換だ!
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