7階

「…ン、メランってば!」

 悲鳴にも似たルラの叫びにようやく意識を取り戻した。貫かれた肩の鋭い痛みに顔をしかめながら体を起こした。

「いったいなぁ…」

 見渡すと、相変わらず氷の女王はこちらを冷たい目で見ていた。意識を失っていたのは数秒のことのようだ。目の前にはしゃがみ込んでこちらを見るルラがいた。

 右上に表示されているバーを見れば、四分の一まで減っている。あの攻撃だけで四分の一。あまりの攻撃力の高さに目を見開く。ミーラシチにもらったお守りがなければどうなっていたことか。

「とりあえず、これ飲んで」

 口に小さな瓶を突っ込まれる。流れ込んでくる烏龍茶にオレンジジュースを混ぜたような液体は聖水だ。すぐにHPが端まで戻り、肩の傷も消えるだろうがこの痛みは中々に消えないだろう。

 ルラは瓶の中身がなくなったのを確認すると、私の手を引いて立ち上がった。

 ミーラシチも戦意を取り戻し、メイスを構えている。

「さて、売られた喧嘩は買う主義でね、覚悟は出来てるんでしょうね」

 あえて、挑発的な言葉を言っても氷の女王の表情は変わらなかった。冷ややかな目を向けるだけ。

「二分だけあげましょう。せいぜい、私を楽しませて頂戴」

「随分と気前が良いのね」

 私は、双剣をくるくる回しながら呟いた。

 だが、氷の女王の余裕は当たり前の事だろう。何と言ってもあちらの攻撃は威力が倍増している上にHPも高いのだ。

 いや、まがりなりにもゲームである以上なんかしらの手段を持って倒せるはずだ。

 それは、戦っていく中で得ていくしかないだろう。

 左右の剣を構え、口の端に笑みを浮かべた。

「良いわよ、楽しませてあげる」

 次の瞬間には型をとり攻撃を開始していた。

 薔薇色の光を引きながら、間合いを詰めていく。右の剣で中段を切り払う。間髪いれずに左の剣を突き入れる。右、左、そして、右。システムに援助されながらも神経回路が灼き切れんばかりの速度で剣を振るい続けた。金属音が氷の空間に響き渡る。

 いくつもの攻撃が阻まれようとも構わず振るい続ける。

 ルラの加護魔法が体を包み、ミーラシチの魔法が氷の女王を灼く。

 だが、どれだけ攻撃しても目に見えてHPは減らない。時々掠める女王の攻撃はこちらのHPを持っていくというのに。

「せあああああ!!」

 少しでも多くの攻撃をしようと絶叫しながら左右の剣を次々に叩き込む。

 攻撃の間、ミーラシチの魔法が女王の体を貫く。その瞬間一気にがくんとHPが減った。

 今、貫いたのは水で出来た矢。これだ、水魔法が女王の弱点。

「ミーラシチ!水魔法を打ち続けて!ルラ!十秒だけで良い、私を守って」

 即座に指示を出して、一度女王から無理やり離れる。

 ここからの操作は一つのミスも許されない。右手を振ってメニュー画面を呼び出す。早鐘のような心臓を無理やり押さえつけ、素早くアイテム欄を選択。アイテムリストをスクロールしていって、目的の物を選び出して、オブジェクト化。白く瞬きながら現れたものを掴み、構える。

 新たに加わった武器を肩にかけて片膝をつく。きっと見る人が見たらまるでスナイパーのようだ、というであろう。

 そう、まさに私が出したものはスナイパー銃だ。

 なぜそれを出したのか、銃攻撃には指定した属性の攻撃ができるという特性があるからだ。

「ルラ!道を!」

 そう叫べば目の前で守ってくれていたルラが傍にずれる。

「いけ、アーグワ!」

 指定したのは当然のごとく水属性。

 銃口を飛び出した水の弾丸は女王の心臓を貫いた。続けざまにヘッドショットを決める。

 女王の全身が硬直した、と思った瞬間。

 女王は大量の青いかけらとなって霧散した。部屋の氷も溶けていく。

 後に残ったのは綺麗に飾り付けられた部屋と白いドレスを着た女性。

「ミチエーリ…」

 隣でミーラシチが呟いた。あの姿が女王の本来の姿なのだろう。

 そこからは何をせずともシナリオ道理に話は進んでいった。

 妖精女王ティターニアに感謝され、報酬をもらって。

 この世界に氷以外の色が戻ってきた。

 気付いた時にはアバターホームに戻っていた。

「これで、戻れるかな?」

 不安そうにルラが呟く。

「きっと、戻れるよ」

 その頭を撫で、眠りについた。

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