アスノイロ

湊谷愛澄

1階

〈アスノイロ〉

 最近話題のRPG。

 ゲームの舞台はおとぎ話に出てくるような世界。

 お城があり、王様と女王がいて、妖精たちが暮らしている。

 しかし、この世界は永遠に冬が続いていた。

 一夜にして建った百階建の塔に住む氷の女王を倒さない限りこの世界に春は来ない。

 妖精女王ティターニアに命をもらった私たちプレイヤーは、シルフ、ウンディーネ、サラマンダー、ノーム、スプリガン、レプラコーン、ケットシーの七種族の中から一つ選びそのキャラクターを使って塔の最上階に住む氷の女王を倒す。

 密度が濃く引き込まれるストーリー、最先端の技術を駆使したゲーム映像。武器、装備の種類も多くおしゃれの幅もあることから女性にも人気が出てきている。

 そんな中、攻略組と呼ばれるトッププレーヤーの中に私、黒川愛海くろかわ あみはいた。


 幼い頃、夢の中で自分は妖精となって大空を飛びまわっていた。毎晩見るその夢が幸せで、自分はなんでもできると思ってた。

 そんな憧れていた妖精にはなれないと悟ったのはいつだったか。

 その夢を叶えられる場所がひとつあった。そう、ゲームの中だ。

 パソコンのキーボードを勢いよく叩く。最後に思いっきり叩けば画面の中で敵が消滅した。

「おぉ、ついに九十九階突破です!ここまで長かったですねぇ…いやぁ、長かった。今日の配信はここまでにしますか。視聴して下さった皆さん、ありがとうございました。また次回お会いしましょう」

 お疲れ様です、次回も楽しみにしてます、そんな言葉が流れるコメント欄を眺めながら接続を切って配信用のヘッドホンを外す。

 背伸びをすれば背骨がボキボキと悲鳴をあげた。長時間同じ体勢でいたせいか全身が硬直している。 

 ゲーム実況者【メラン】として活動を始めて早三年。チャンネルの登録者数は八十万人を超えている。

 夢も目標もなく、毎日平凡でありきたりな毎日を少しでも変えたくて始めたのがこのゲーム実況配信だった。

 学生業の傍ら細々とやっている実況がここまで伸びるとは誰も想像していなかった。誰よりも自分自身が一番びっくりしている。

 今はこの時間だけが幸せだと思える。

「これだけやっちゃうか」

 今日の配信分の動画を編集し投稿して眠りについた。

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