6階
新しく仲間に入ったミーラシチを連れてレプラコーン領の武器・装備屋に向かう。
私とルラの武器と装備はどちらも最高級の品物だ。それに関して不安はない。
一方ミーラシチは武器や装備を一切持っていないに等しい。
レプラコーン族は武器や装備を作るプロフェッショナルだ。一般的な街で買うよりも断然こちらの方が良いことは明白だろう。
ミーラシチは初めて見る武器や装備の数々に目を輝かせていた。置かれているものはどれも一級品だが自分の戦闘スタイルに合うものを買わなければ意味がない。
「ミーラシチは、魔法を使うんだよね。回復系?攻撃系?」
「攻撃系よ。あと少し中距離の打撃は出来るかしら」
「なるほどね」
それならメイスが合うだろう。ただ、メイスはハンマーほどでもないがそれなりの重さがある。果たして細身のミーラシチに持てるのか。
「あら、メイスって意外と軽いのね」
なんと片手で持てました。
店頭に置かれている中で一番攻撃力が高く、尚且つ高レベルの魔法にも耐久性があるメイスを選んだ。これで武器は完了。
次は装備品だ。装備品が置かれているエリアに行こうとするとミーラシチがそれを止めた。
どうしてか尋ねれば、今来ているドレスには高い防御力が備わっていると言う。それから防具を着け俊敏性が落ちるのを避けたいらしい。それに口出しする権利は私にもルラにも無いだろう。
そうなればあとはポーション類のアイテム購入か。
それらを買うのは城下町の方が適当だろう。
いざお店を出ようとした時、グキュルルとお腹が鳴る音が響いた。
隣で顔を赤らめながらお腹を抑えるルラ。
お昼から何も食べずに戦闘や買い物をして今や夜の十時。お腹が鳴るのは当然のことだろう。
「ご飯、食べよっか」
いまだ恥ずかしがっているルラの頭を撫で、お店を出る。
日はすっかり沈み空には無数の星が輝いていた。都会生まれ都会育ちの私たち二人にとってこの満天の星空はとても幻想的に見えた。
領の中央にある水晶で城下町を設定し転移をする。
夜といえど城下町は人で溢れかえっていた。ミーラシチは城下町にくるに来るのが初めてだそうであたりをキョロキョロと見渡しながら歩いている。
家につけば、実家のような安心感に今までの疲労が押し寄せてきた。
ただ食材を鍋に入れるだけで完成するポトフのようなスープとパンのようなものでご飯を済ませる。
明日にはもう氷の女王の攻略へと向かう。本当の意味での命がけの戦いになるだろう。
これが終われば現実世界に帰れるんだ。
ミーラシチが隣で寝ている中そんな思考をしていた。
早く帰りたいと願う一方でまだこの世界にいたいという思いもあった。
この世界はとても居心地が良い。私が望むことが全て出来る。
今、私の背中に生えている羽を使えば空を飛ぶことが出来る。一度は誰もが憧れた魔法だって使うことが出来る。
一生ここにいて、ここで未来をつくっていくことだって出来るはずだ。
それでもどこか虚無感が残るのはこの世界が本当の私の世界ではないからなのだろうか。
− 何も悩むことないじゃない。これが貴方が望んだことなのよ、ここにいればいいじゃない
『私が望んだこと?そうだとしても私の世界はここじゃない』
– 自分の世界じゃなくても生きていくことはできるのよ?
『私は自分の世界で未来をつくっていきたいの。やりたいことだってあっちにはたくさんある』
− それなら、頑張ってとしか言えないわね
『ありがとう』
− 私はいつでも貴方のそばにいるよ
気がつけばもう朝になっていた。いつのまにか寝ていたようだ。
ミーラシチを起こさぬようにベットから降りて朝食の準備に取り掛かる。
今日は戦になる。しっかりとしたご飯を作らなければならない。
鳥の姿をした魔獣が落とす卵を使ってスクランブルエッグを作る。それに添えるのはキャベツ風の葉と豚のような魔獣から取れるお肉を使ったハム。
パンを軽くトーストしお皿に盛り付ける。昨日の残りのスープを置けば完璧だ。
ご飯の匂いにつられたのかミーラシチが起きてきた。珍しくルラも起きていた。
「いただきます」
ある意味最期のご飯になるだろう味を噛みしめる。
ご飯を食べ終えてすぐにアイテム屋へと買い出しに行く。
回復ポーション、麻痺・解毒のポーション、聖水。必要なものを買い込んで、ある程度の数は具現化させたまま腰のポシェットに入れる。あとは全てアイテム欄に入れて準備は完了だ。
「いざ、百階へ」
「おー!」
塔の番人に百階を指定して、あとは転移を待つのみ。
この先どんな未来が待っているのか、それは誰にも想像できない。
己と仲間を信じて戦った先に未来があると信じ、転移開始ボタンに触れた。
もう慣れてしまった転移の浮遊感。その次に感じたのは寒さだった。
ただの寒さではない、死の冷酷なまでの冷ややかさだ。
あまりの寒さと恐怖に身震いをする。
目の前の扉は覚悟無き者は立ち入るべからずと言わんばかりに重く構えている。
大きく息を吸って、少し貯めてから吐き出す。
二人に目を合わせ頷きあってから左手を扉にかけた。
ゆっくりと力を込めると、私の身長の倍はあろう大きな扉は思いがけずすんなりと動いた。
一度動いた扉は自動的に左右連動して開いていく。三人が息を詰めて見つめる中、完全に開いた扉はゆっくりと停止していった。
内部は、八寒地獄の一つであると表すに等しかった。全てが氷で出来ている。壁も、装飾品も、なにもかも全てが。
「………」
部屋の一番奥に鎮座するのが氷の女王か。虫けらでも見るような冷ややかな目でこちらをじっと見ている。
「貴方、誰?」
身を芯から凍らすほど冷たい声が響く。声を出そうと口を開くが出てくるのはかすかな息だけ。
「ミチエーリ、私は貴方を助けに来たの」
大きく一歩踏み出たミーラシチすらも冷ややかな瞳で見る。そのうちゆっくり首を少しだけ傾げて言った。
「誰かしら?」
それはミーラシチの心に重くのしかかり、動けなくするのに充分だった。
これぞ、まさに氷の女王か。
「私たちは貴方を倒す!いざ参らん!」
自ら声を出さなければ意識を凍りそうだった。
地面すれすれを滑空するように走る。
それを黙って見ていた氷の女王がため息をついて持っていた杖を軽く振った。壁から氷の棘が飛んできて慌てて避けるも私の肩を貫いた。
意識が暗転した。
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