第三話 嬉野祥子は推理する。
さて。
これが探偵見習い(仮)のあたし、
お話――というより、まだまだ駆け出しの探偵見習いであるあたしによる推理と考察かもしれません。
【謎:その1】
二人のお母さま、
これ、とっても気になりませんか。
もちろんあたしも例外ではなくって、後日、自分なりにいろいろと調べてみたのです。
となると、まずは……避けて通ることはできない一〇年前の不幸な事故について調べる必要がどうしてもありました。それも、
「電源は……ああ、ここですね。ぽちっ」
ふぃーん――かり、かりかりかり。
なので、探偵事務所でのお仕事がない日に、自宅のパソコンからインターネットを使って新聞に掲載された記事を調べることにします。これは言うまでもなく、白兎さんが新聞記事の切り抜きを持っていたから。それが全国紙のものか地方紙のものかまでは分かりませんでしたが、紙質から見て新聞紙だということは明白です。
「えとえと、一〇年前ということは……というより、そもそも名字が珍しいから、そっちで」
案の定、さほど苦労もせずに数件の記事がヒットします。さすがは難読姓さまさまですね。
『乗用車とトラック衝突。運転手含む二名死亡』
時系列的に最も古い記事見出しが飛び込んでくると、あたしの口数はぱったり少なくなります。全国紙の地方版の中の記事。誰かの大切な人が二人も亡くなったのに、こんなに小さい。
『17日午後4時25分ごろ、〇〇市▲▲町□□付近の道路で、同市●●、トラック運転手宮後丁次郎さん(29)の大型トラックと、△△県■■市◎◎、会社員四十九院祥歌さん(40)の普通乗用車が衝突、宮後さんと四十九院さんの同乗者の2名は搬送先の病院で死亡が確認された。〇〇署によると、現場は見通しの良い直線道路。しかし、事故当時は非常に激しい降雨が観測されており、視界不良のため対向車線にはみ出し対向車と衝突したものとみられる』
「……やっぱり、でしたか。だから白兎さん、妙な顔をしていたんですね」
記事にもあるとおり、この事故のもう一方の被害者の名前は『宮後』さんだったのです。
そうです、あの日、白兎さんと一緒に祥歌さんのお見舞いに伺った際、面会帳に書かれていたのは『宮後寧子』というお名前。普通に考えるのなら、亡くなったトラック運転手、宮後丁次郎さんと何らかのつながりがある方とみるべきでしょう。
「……ととと。それよりこの方、何とお読みすればいいんでしょうか」
早速調べてみると『宮後』と書いて『みやご』『みやうしろ』『みやじり』と読むようです。『宮前』さんがいるのですからはじめの二つは予想の範囲内ですが、『みやじり』は意外。
「じゃあ……『みやごねいこ』さん? とお読みすれば良いんでしょうかね……んん?」
妙に何かが引っかかるのです。
口に出した時の、記憶の中の何かを連想させる不思議な既視感。
みゃーご――ねこ。
「あはははは……そんな、子供騙しじゃあるまいし。まさか、ですよ。うん」
でも、その瞬間あたしの脳裏に浮かび上がっていたのは、紛れもなくあの人の姿でした。
まさか――ね。
本件については、これ以上の情報がありませんから、ここで打ち切り、としましょう。
【謎:その2】
あ、あのっ!
そこの、呆れた顔でページを閉じようとした、あなた、です! ちょっと待ってください!
これ、かなり重要なのです。
あたしには超重要。数日後に迫る期末試験の傾向と対策なんかよりもはるかにはるかに。
「うーん……」
「おーい! うれしょーん!」
「どうなんですかね……直接聞いてみる訳にもいかないし……」
「あーあー。聴こえてるー?」
「とはいえですね……かなりの確率で、もうぐぐっとキテるっていうか……」
「ガン無視つらたーん! はっ! もしかしてウチ……透明になる能力系JKとか!?」
「ううう……困りましたよぅ」
「ぷぷぷ。じゃー、ちょーっとうれしょんを驚かせちゃおっかなー?」
はぁ……と溜息をつきつつ、ふと右隣に視線を向けると。
んちゅー。
「な……っ!」
グロスで艶やかに光輝くぷっくりとした唇を突き出し、目を閉じてあたしの方へと接近中の有海の姿に驚きまくったあたしは、仰け反り気味に大慌てで有海の顔を両手でがしっと掴み、
「何してるんですかぁあああああ!」
「ありゃ? やっぱ見えてたー? ちぇー」
両サイドからプレスされ、面白可愛い顔付きになった有海は残念そうに言います。
「だってぇ。うれしょんってば、いくら呼んでも反応ないしー。ちょーっとイ・タ・ズ・ラ」
「やって良いことと悪いことが……って、あれ? 別に止めなくても良かったんじゃあ……」
りーんごーん。
「やばやばっ! 次、移動教室っしょ! ほら、早く支度して行くよー!」
「え? え? えええ!? あ、有海さん? もっかい――もっかいお願いします!」
振り向きざまに、ぺろり、とキュートにピンク色の舌を突き出した有海は言いました。
「また……今度、ね?」
【謎:その3】『
そうです。
さっきの謎、あれはこの謎に触れるのを
あたしは知っています。
あたしだけは知っています。
同じ悩みを持った四十九院白兎とあの田ノ中幸江に、同じ台詞を告げた人物がいることを。
『幸せになるには一つになるしかない――』
彼は――彼女は同一人物なのではないでしょうか。
そして今もなお、何処かで誰かに、同じ台詞を囁いているのではないでしょうか。
これは白兎さん流にいうのなら、探偵見習いのあたし、平凡JK嬉野祥子の単なる『勘』。
ただの偶然かもしれない、何の確証も根拠もない、ただのざわざわした予感。
けれど、あたしは必ずや彼女の正体を突き止めてみせます。
それがあたしが大好きな二人のためにできる、やらねばならない使命なのですから。
<完>
世界を動かすものは、ほかならぬ百合である。 虚仮橋陣屋(こけばしじんや) @deadoc
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