季節感出しときゃええんや:四月馬鹿編

 エイプリールフール――それは一年に一度、四月一日に訪れる嘘をついても許される日。その由来には諸説あり、確たるものは未だ不明であるとされる。


 ぶっちゃけて言えば何の生産性もないイベントであり、イベントと呼べるかも微妙。暇人はどんな嘘をつくか頭を悩ませるが、興味のない人は特に何の嘘も言わず一日を終えたりする。


 しかし、しかしである。

 究極の技術の無駄遣いの結晶たるみーにゃが、この日に何も仕掛けてこないとは考え難い。これすなわち、見えている地雷という奴である。どう足掻いても翌日の朝になれば避けることは叶わず、そして何を仕掛けてくるかもわからない。僕は一抹の不安を覚えつつ、まぁどうせしょうもないことだろうと眠りについた。


 そして翌日――いつものように僕の布団に入り込んでむにゃむにゃ言ってるまーにゃを抱えて起床し、恐ろしく栄養と味のバランスが取れた朝食を口にする。いやもう、これみーにゃいなくなったら朝ご飯に満足できない人生を送ることになりかねないのでマジで危険だけれども。


(……仕掛けてこないな)


 普通に何事もなく、いつも通りみーにゃは「365日常に遅刻せず、文句も言わず、完璧な朝食を作り続けることが人間の女に出来るでしょうか!? いやない!!」とか叫んでいる。いっそ既視感を覚えそうになる理論に、いつも通り反論してみた。


「いるかもしれないだろ。あと別に男が朝食作ってもいいんでね?」

「いいえ、分かっていませんねますたぁ。この時代のこの日本はジェンダーだ男女共同参画だのと口では言いながら政治家さえ女性を蔑視している超ジェンダー後進国ですよ! ますたぁも口ではそんなこと言いつつ奥さんが出来たら当然のように朝食を作らせる昭和のかほりを残した人間になるのです!!」


 これまた絶対ないとは言い切れない話である。DVを受けて育った子は大人になるとDV親になる的な。

 父親がそういうタイプだったので歳を取ると似てしまうかもしれない。とはいえ、幸か不幸かお菓子作りを続けたことで僕の料理スキルも多少は上昇している。きっと大丈夫と思いたい。


 そんなことを考えつつ、ふと食事に目を落す。

 食品加工は彼女の得意中の得意分野。

 目の前に並ぶ白米、味噌汁、焼き魚にお浸しと漬物という見事なテンプレ和朝食の中に既にフェイクが混ざっているのではないだろうか。


(……いやでも、よく考えたらだから何だって話だな)


 白米の味と触感がして栄養価もだいたい同じな化合物なら、もうそれ本物と変わらないだろって話だし。流石に彼女が僕に毒を盛るとも考え堅い。精巧になり過ぎた偽物は本物と同等の価値を持つということか。


 真実と虚構の境など元から曖昧なものだ。或いは先行した嘘が真実を誘発させることさえ世の中にはある。そんなものを一つ一つ疑って生きていくことは自己防衛になるかもしれないが、虚しくもある。


 みーにゃの善意を疑うこともまた、虚しいこと。

 どっちにしてもみーにゃは僕を助けてくれている。

 まぁ彼女を送り込んだ人の思想は普通にダメクソだと思うが目の前でこちらが食事を頬張るのを嬉しそうに見つめるみーにゃの笑顔まで疑い続けるのはやめておこう。


「みーにゃ、そんなに僕の顔見るのが楽しいか?」

「楽しいですよ? いつ気付くかワクワクします!」

「おっとぉ、人の不安を煽るもう勝負は始まっているアピぃ!? 疑る生き方はやめようと悟りを開きかけた僕の心に早速暗雲だぞ!!」


 ――とまぁ馬鹿なことをしつつ、学校に行く。

 宿題の内容を先生が間違って指示してたという小さなトラブルがあったり、ユヅキに次のお菓子をせびられたり、同級生に「みーにゃさんに風呂で背中流されてるんだろ?」などと下世話なトークをしつこく振られたり、割と普通の一日であった。

 結局みーにゃがついた嘘とは何だったのかと微かに疑問に思いつつ家に帰り、みーにゃたちのサポートで至れり尽くせり過ぎて自分が駄目人間になりそうな不安を覚えつつも寝床に入る。


 結局、四月一日は普通の一日だった。


 そして翌日――いつものように僕の布団に入り込んだまーにゃを抱えて起床し、恐ろしく栄養と味のバランスが取れた朝食を口にする。いやもう、これみーにゃいなくなったら朝ご飯に満足できない人生を送ることになりかねないのでマジで危険だけれども。


 普通に何事もなく、いつも通りみーにゃは「365日常に遅刻せず、文句も言わず、完璧な朝食を作り続けることが人間の女に出来るでしょうか!? いやない!!」とか叫んでいる。いっそ既視感を覚えそうになる理論に、いつも通り反論してみた。


「いるかもしれないだろ。あと別に男が朝食作ってもいいんでね?」

「いいえ、分かっていませんねますたぁ。この時代のこの日本はジェンダーだ男女共同参画だのと口では言いながら政治家さえ女性を蔑視している超ジェンダー後進国ですよ! ますたぁも口ではそんなこと言いつつ奥さんが出来たら当然のように朝食を作らせる昭和のかほりを残した人間になるのです!!」


 ――ん?


 あれ、この会話って昨日もしなかったか?


「なぁ、みーにゃ。昨日の朝ご飯ってなんだったっけ」

「白米、赤ダシのお味噌汁、鮭の塩焼き、大根・人参・白菜のお漬物、そしてほうれん草のお浸しですよ?」

「お前……飽きさせると悪いからって魚の種類も小鉢も毎日中身変えてたよな?」

「流石ますたぁ、よくみーにゃのことをご存じで……ハッ!! これは俗に言う『普段素っ気なく接してるけど変化があると誰よりも早く気付く』というラブコメ主人公にありがちな勘の鋭さ!! やだ、みーにゃ口説かれちゃう!?」

「喧しいわ!! 誰が口説くか!!」

「つまり既にみーにゃは愛の奴隷……!」

「ぬええいッ!! 俺をイジってそんなに楽しいかぁ!!」

「楽しいですよ? いつ気付くかワクワクします!」

「……!?」


 その言葉――聞いたことがある。というか、昨日に一字一句違わず同じ言葉をみーにゃは口にしていた。俺の中でその言葉、今の状況が組み合わさって一つのロジックが導き出される。


「みーにゃ……今年の四月一日は、?」


 その問いにみーにゃはいつも通りのにこにこ笑いを更に深くした。


「やっと気づいたんですね、ますたぁ! 嗚呼、長かったなぁ……やっとこのエンドレス・エイプリールフールを抜け出せます……」

「ではやはり、この日はループしていたのか!! あの既視感の正体も!!」

「ま、嘘なんですけど」

「ズコー!!」


 あっさり手のひらドリルされて俺は突っ伏した。その反動で朝ご飯が宙を舞ったが、まむめーにゃが華麗な空中殺法を発動して全て恙なく回収したけど。君ら有能過ぎない?


「ん待てぇい!! つまりこれはどういう嘘なんだ!!」

「え? ますたぁが3月31日に睡眠に入った瞬間にドリームインターフェイスで夢として一日分の記憶を見せて、翌日に同じ導入で入ることによってますたぁの時間がループしていると勘違いさせるという嘘ですけど?」

「え!? じゃあ昨日の出来事は!? 宿題の内容を先生が間違って指示してたりユヅキに次のお菓子をせびられたり同級生に下ネタトークしつこく振られたのも全部お前が考えたの!?」

「はい。それぐらい凝ったことしないとますたぁ騙されてくれないかなぁって♪」

「怖いわッ!! ループしてたらそれはそれで怖かったけど、一日分の記憶頭に刷り込まれるのも十分に怖いわッ!! エイプリールフールってそういう洒落にならないこと言う日じゃねえから!! もっと可愛らしい嘘をつく日だからッ!!」


 なお、ユヅキはクロエくんに嘘で「もうお菓子買ってあげない」と言ったら無言で涙をぽろぽろ流されたらしく罪悪感に苛まれていた。なにやってんだお前は。


「嫌われたらどうじよう……うぇ~~~~~~んっ!!」

「いちご味のお菓子買ってあげれば許してくれるって。なんならお前が作れば? うちに材料揃ってるしさ」

「材料揃ってるっていう嘘だったらどうじよう……」

「かってに底なしの疑心暗鬼に嵌るな。あるから、ちゃんと」

「うん……うん……信じるね?」


 ぐずりながらしなだれかかってくるユヅキにちょっとドキっとして、エイプリールフールも意外と悪くないのかもしれないと思ってしまった僕であった。


「……と役得を感じるますたぁを見て計画通りとほくそ笑むみーにゃなのです。あのループ嘘を挟むことでますたぁの選択は変化しているのです! ふふふふふふ……」

「だからお前は僕とユヅキを引き剥がしたいのかくっつけたいのかどっちなんだッ!!」

「実際のところ、96ヱ型に恩を売るのが真の目的ですね。保身のためのゴマスリ媚び媚びです!」

「台無しだよッ!?」

「なお、エイプリールフールを過ぎてこの小説が公開された理由は作者が投稿予約時間を設定し忘れたからだそうです。馬鹿ですねー!」

「次元を超えて情報読み取るのやめろッ!!」

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