第9話閑話 栞さんのがんばり *栞さん視点なのでネタバレ感あるかもです
今日は、二度目のお家招待です。相手は幼馴染の大輝くんです。少々強引な誘い方になりましたが、これぐらいしないと勇気が湧いてきません。
「どうぞ、上がってください」
今、私は料理を作っています。自分の家に男子が、しかも二人きりと考えると、緊張して手に力が入っちゃいます。でも、今は料理を作ることに集中です。美味しい料理を出さないと、嫌われちゃうかもしれません。
「はい、できましたよ」
料理が完成しました。いつも以上に力を入れたので、きっと美味しいはずです。それにしても、さっきの反応はなんだったのでしょう。今も、大輝くんは顔を赤くしています。何かまずいことをしちゃったのでしょうか。
「「いただきます」」
とりあえず、ご飯を食べることにしました。ですが、困ったものです。ご飯を食べながら何かをするという事は嫌いなはずなのに、大輝くんの方を見てしまいます。美味しそうに食べているのを見ると、嬉しくなっちゃいます。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
そこからは必死に食べる大輝くんとそれを見つめる私の構図がずっと続きました。私が振る舞いたくてやっているのに、お礼を毎回言われます。嫌な気なんて一切しませんが、なんだか悪い気がしちゃいます。
「お礼って言ったら何だけど、これ。神崎さん、うさぎ好きだったよね?」
突然、大輝くんはそう言ってうさぎのぬいぐるみを私に見せてきました。好きです。好きなんです。でも…
(でも、どうしてそれを?)
そう声に出そうとすると、大輝くんが先に口を開く。
「あ…ごめん、嫌だったらいいんだ、偶然取れたものだし…」
そうじゃないです。嫌なんかじゃないです。
「い、嫌じゃないっ!…です。でも…どうして、うさぎが好きなことを?」
「そ、それは…家にうさぎのぬいぐるみとかあるし、それに…」
「それに?」
「昔、うさぎのことが好きだって言ってたし…」
その言葉を聞くと、私の顔が赤く、熱くなるのを感じます。昔のことを覚えてくれている。という以上に嬉しいことはあるのでしょうか。でも、少し恥ずかしいです。
そうやってもじもじしていると、大輝くんがうさぎさんを渡してくれました。
「ありがとうございます!」
嬉しいです。ぬいぐるみが貰えたこともですが、何より昔のことを覚えていてくれたことが嬉しいです。
「明日も学校あるし、そろそろ帰るよ。今日もありがとう」
大輝くんが、そう言ってきた。
「いえ、こちらこそお礼をしたかったのに、また貰っちゃって。ありがとうございます」
「ご飯ご馳走してもらってるし、喜んでもらえたなら嬉しいです」
「それでは、また」
大輝くんが帰って行きました。嬉しかったです。また、お礼をしなくちゃなりませんね。
(このうさぎさん、どこに飾ろうかな…)
なんてことを考えていると、私の耳に声が届きました。お隣さんの声です。
「無理!あんなの、可愛すぎんだよ!」
突然の言葉に思考が止まります。じわじわと、顔が赤くなり、手も赤く染まり、全身が熱くなり、心臓が跳ねました。そんなこと言われたら…
(こっちが、無理ですよぅ…)
ゆめみる少年と前を向く少女 @yukufuru
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