やさしさが生きるこたえなら

この作品は恋人でもある幼馴染吉岡佳世が、他の男池谷浩史と懇ろになっているのを
目撃してしまうという衝撃の展開で幕を開けます。
同じく現場を目撃し傷ついた間男の彼女白木琴音と共に
真相に迫っていくのですが、真相は思っていたよりもハードです。
その辺りの心情をジョーク等で、上手くオブラートに包んではいますが
当然心は荒れ狂い、傷からは止めどなく血が流れていきます。

真相を探る内に「同じ境遇」から段々とお互いが大切な存在へと変わっていく
琴音と主人公ですが、同時にモヤモヤした気分は解消される事はありません。
人間ですから当然不実な彼女や割り込んで来た間男へ復讐したいと強く憎しみを
募らせますが、時間の流れは残酷で更に状況が進行かつ悪化の一途を辿ります。

単なる浮気ではなく「これまでの人生全てを否定される」思いと、完全には
断ち切れない情との狭間で葛藤を繰り返すも、やがて浮気の事実は最悪の形で
周知の事実となってしまい主人公は酷い冤罪を掛けられてしまいます。
(真相を明かす為にこれまでの証拠を開示した後、周囲の主人公の心情への無理解に対して「血を吐く様な叫びと嘆き」は本作品の最大の見せ場だと個人的には思います。)

結果的には冤罪が晴れ別れる事になり、別れた事によってより一層琴音と親密さを増し佳世は段々と追い詰められながらも、過去が彼女を追いかけてきます。
過去にしてきた事は佳世にとって最悪の展開へと進んでいきますが
ここでも主人公は「漢」を見せます。
(個人的には自分でヤラかした事なんだから、関わらない方がいいのにと思いますが)

そして主人公達の紆余曲折の果てに、佳世の暗雲は解消し本当の意味でサヨナラをします。

主人公は佳世とサヨナラして琴音と会い、佳世は主人公とサヨナラして苦い思いを噛み締めながらこれからの人生を歩んでいくものと思われます。
故人曰く「さよならだけが人生」とは良く言ったもので、各人かつての自分とサヨナラする事で苦い経験を経ながらもまた一歩大人になり、新しい出会いを得ました。

恋人の浮気とそれを知った絶望という重いテーマでありながら、軽妙な文体がその痛みを軽減させてくれるので、読後感は非常に良い物となりました。

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