第26話 黒百合


「お姐様・・・わーいお姐様むにゃむにゃ」


暑苦しい。

今の状況を説明するに、憤怒は隣にいるトートに抱き枕代わりにされていたのである。

本来、シングルルームなだけあって、ベットも狭い。

抱かれてるから身動き一つ取れない状態である。

そして、辺りは真っ暗。

早く寝たいのだが、そうは問屋が下ろさない。

内心ここまで来ると、もうどうしようもなくなって、怒る気力すらなくなってしまうのである。

しかし、執念はいまだ忘れていない。

憤怒は烏と同じ、あるいはそれ以上に執念深い女であると自負している。


「チッ」


唐突に憤怒は舌打ちをする。

今、トートとかという畜生の今日の台詞(意外と可愛いところもあるんですね)を思い出してイラッとしていたところである。

完全にこの憤怒を舐めている。

とりあえず、こいついつか火炙りにしてやる。


「いやはや、これはなんたる行幸、百合の花もいいものですね」


「何しているんですか?瘋癲(ふうてん)小悪魔」


小悪魔とはいつぞやの身長が低く、顔がまるで子供が一生懸命描いた絵のような顔をした奴である。

今頃、憎たらしく笑っているのが目に浮かぶ。


「おや、汚いお言葉ですね、私はあなたにそのような言葉遣いを教えていませんよ?」


「やかましい、ああもういいです。さすがに私も疲れました、もう寝かせてください」


疲れている彼女であったが、小悪魔の方から何か奇妙な音がしているのを聞き取っていた。まあ、面倒くさいので、言及しなかったが。


「ほほ、なるほど、疲れているのですか、しかも身動きも取れない状況・・・これはいたずらのチャンスですかね?」


「近づいたらどうなるか、わかりませんか?」


「はは、冗談ですよ、それで、どうするつもりですか?隣で寝ている可愛らしいお嬢様は?」


「無視でいいですよ、こんなの」


憤怒は、隣ですやすや寝ている童顔のトートを一瞥して、吐き捨てるように言った。


「ほう、仲間にでも誘ったらいいじゃないですか?」


「笑えない冗談ですね」


「いや・・冗談のつもりでは・・」


「大体、私に仲間など入りません、足手纏いになるだけです。それにこんな得体の知れないやつを仲間になんて入れられませんね」


この憤怒と言う名はなんのためにあるのか。

憤怒というこの名は、恐怖と尊厳の象徴なのだから、私が強いという証なのだ。

憤怒はいきなり舌打ちした。


「どうされました?」


「いいえ、なんでも」


憤怒はこの憎んでいる異名を一瞬でも誇りに思ってしまったことに怒りを感じた。

話が逸れたが、とにかく、仲間などというものが不必要なのは、この名前そのものが物語っている。

仲間なの持つだけ邪魔なのだ。


「何に苛ついているかは知りませんが、一つ私が反対意見を出すにトート様の魔術は概ね把握しました」


「ふん、ハッタリを」


「いいえ、嘘なのではありませんよ、トート様はヒントをボロボロ落としてましたよ、まるで自分の能力を見せびらかすようでしたね、そこから思うにトート様はあなたに敵対心を抱いていないと思いますよ、敵にしては少々素直すぎる。」


「ほう、ハッタリじゃないなら教えてくださいよ」


「嫌です、私が教えては面白くないでしょ、ほほ」


「チッ、(変態が)しかし、この女は私の敵の一人ですよ?信用などできるはずがありません」


「だから、それはトート様が言ってましたよ、私は彼女が嘘をついているとは思えませんし、本当に他の魔女があなたを殺そうとするなら、仇討ちをするのが普通でしょう?しかし、彼女は真正面からあなたに向かい合い一回も攻撃をしていないのですから、味方でなくても敵にであることはないでしょう」


憤怒はヘソを曲げて、


「嫌です、冗談じゃない、なぜそこまでして私とこいつをくっつけたがるんですか?」


「なぜ?それは自明の理です。百合の花を手放すなんて言語道断。それにトート様がいた方が明るいですから、あなた様はあまりに陰険すぎます」


「だ、誰が陰険ですか?!変態悪魔が!いい加減にしないとその尻尾引き抜きますよ!」


と言った時、隣の部屋から「うるせえぞ」と怒鳴られる。

憤怒は人に注意されますます苛立ちが募る。

ああ、もういい、早く寝ようと憤怒は目を閉じた。

小悪魔が何かを言っていたような気がするが、おぼろげになっている意識の中ではその内容を把握する事はできなかった。


次の日、机の上に何者かが書いたと思われる、黒髪の長身の女性と紫髪の短身の少女とが、お互いに艶かしく抱き合っている絵画が置かれていた。



















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憤怒の魔女はどこまでも 縁の下 ワタル @wataru56

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