星籠セクステット〜6th in the Lunatic〜 cASE:NO:XX
唯月希
cASE_NO:000-1-enD Of BEginninG-pro
そこら中のアスファルトが剥がれ、めくれ上がり、あるところは歪んでいる。
そして、その平という概念をすっかり忘却した地面に、何人かの少女がぐったりと横たわっていたり、隆起したアスファルトにうなだれかかり、半分埋まるようにしていたりして、ある者は意識はあるものの動けず、ある者は気を失っているが、どうやら呼吸はしている様子で、かろうじて全員命に別状はないように見受けられる。
しかしその様は、少女たちが普段生活しているであろう日常とは比較してもできないほどに凄惨で残酷で、ありえない光景と言って差し支えないだろう。
ある種の地獄。
現代日本でこれだけのことが起こるとすれば、それは大規模な自然災害か、悪質で凶悪なテロに偶然遭遇してしまったか、というような極端な選択肢しか想定できないだろう。
しかし彼女たちは、自ら選択してその場に来て、今でこそ、その惨状に置かれているだけだ。
その中にあって、唯一両膝をぎりぎり地に付かず、気力だけで耐えているように見えるが、それでも立っている少女と言える女が一人。
身につけている衣服は、おそらく通っている学校の制服だろうと推測はされるが、それも袖はビリビリに破け、肩口は切り裂かれて、にわかに血が滲んでいる。靴は片方履いていない。自ら脱いだのか、何かの拍子で失ったのか。ソックスも所々が乱暴なように破けて、血が滲んでいる。左の小指は、骨による矯正をまるで無視してあらぬ方向に曲がってしまっている。露出している大腿部にも数カ所切り傷があり、未だ止血できていない複数の出血が認められる。スカートの裾など見るも無残な状態だ。一つ風が吹けば、中が露わになってしまうことは否定できない。穴も開いている。
それでも、少女が立っている理由は、対峙する人物だった。
「いい加減わかったかい。自分たちの力をいくら束ねようと、僕たちには、僕一人にすら敵わないことが。わかったら大人しく、こっち側に来るんだ」
まるで上から目線の、命令するような口調で対峙する人物はいう。
長身に黒い長髪で、時期外れにもロングコートを纏っている。
「……っく」
対する少女は、歯を食いしばって、心底憎いという表情で対峙する男を睨み、立ちはだかるようにゆっくりと折れそうな膝を伸ばしていくが、体は悲鳴をあげるように震えている。
左腕を抑える右手からは、おそらく直前に受けた傷を抑えているのだろう。その指の隙間から、まだゆっくりと鮮血が漏れ流れていた。
「まだやる気かい?しかも、君一人で?」
年端もいかない少女のそんな状態を目の当たりにし、かつその憎悪の塊のような視線を受けても、対峙する男は嘲笑うようにいう。
「…り、りり、あ」
少し離れたところで、不自然にめくり上がったアスファルトに寄りかかって腹部を抑えて
「……ふざ、けん、なよ」
「ん?なんだい?」
立ちはだかる少女ー
「……ふざけん、なよ!わたしは…」
「りりあ…やめて………もう」
「こいつらを……絶対…絶対に守る…って、決めたんだよ」
その、力強いまでもか細い、けれど溢れるほどの確固たる決意に塗れた、泥臭い一言が放たれた、
次の瞬間に、
その辺り一帯を爆風が支配した。
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