cASE_NO:000-2-enD Of BEginninG-[polaris]

 2019年5月のゴールデンウィークのことである。

 年号も変わり、日本全体がなんとなく浮き足立っていた時に、その少女たちは完全に浮き足立っていた。

「やったー!できたー!いえーい!どうよ!これがわたしたちの城じゃ!」

「別にりりあんが作ったわけじゃないでしょ。手続きも部員集めも、のうちゃん先輩がやってくれたんじゃない」

「そうだけどいいのだ!これぞ望んだ我らの城!」

「あ、あの、私まで本当にいいんですか?お邪魔しちゃって」

「あ、うん。りりあんが妙にテンション高くてごめんね」

「いえ、それは楽しそうでいいんですけど……」

「ふーん。まあ人数的には的確な広さじゃん?けどこれ掃除しないとあれね」

「そうなんだよ君塚くん。手伝ってくれる?」

「しゃーねーなぁ。っしゃやるか!」

 期限が最上級に上がっている華厳莉理亜けごんりりあをたしなめる西央さいおう こう、そこに申し訳なさそうに部室を覗き込んだのは八飛宮やとみや 冴楽茶さらさで、答えたの縫至答ほうしとう 。妙に冷静なのが君塚きみつか 子々吏ししりだ。

 新部活の、まさにその初活動スタートの日である。


 大型連休の間、度々集まっていた面々は、その日たまたま顧問の教師である賀喜往かきゆき 千依ちよりに道端で遭遇し、部活の申請がとりあえず同好会という形で承認され、部室が使えるようになったという話を聞いた。賀喜往はこれから学校へおもむくところだという話を聞いて、5人も予定を変更して賀喜往に同行し、部室に通されたのだ。

 しかし、割り当てられた部室は長年ろくに使われていない、生徒資料室。生徒に関する個人情報に関する紙類の資料は、その全てのデータ化によって大幅に激減、絶滅危惧種扱いとなった今や、その部屋は形式的なものでしか無くなっていた。

「しっかし、個人情報扱ってた部屋だけあって、ものが少なくて掃除も早そうだなこりゃ」

 君塚がそう言いながら、廊下の掃除用具入れとして近くに設置されていたロッカーから持ってきたモップとバケツを構えながらいう。

 華厳はすでに、ホコリなどまるで気にしないように部屋中央に設置されている長テーブルの上でゴロゴロとしている。

「こら、莉理亜。そんなことしたら全身ホコリまみれになるぞ」

「もう!ししりん!りりあんだって行ってるでしょ!」

 君塚の注意に駄駄をねる華厳。

「やなんだよそれ!まず第一にあだ名で呼ぶのも抵抗あんのになんでめっちゃ似てんだよ!?おそろいみたいじゃねぇかよ。絶対やだ」

「へ?お揃い?……あ、ほんとだししりんりりあん」

 君塚の指摘に、まさに今気づいたかのような反応とともにきょとんとする華厳の表情を見て、君塚はその表情の苛つきの色を濃くした。

「なんか遠くないけどそこまで近くもないような?」

 西央が横から指摘する。

「あー!もしかしてししりん、莉理亜のこと意識してるのー!?そうでしょー!!!もう可愛いなぁ!」

「ええぇ!?何言ってんのこいつ!意識ってなんだ!?なにすんのそれ!?」

 君塚と華厳が、これまで積み重ねてきた時間の中ではもはや定番となった姉妹漫才のような状態に突入した時、である。

 冷めた目で、縫至答が断絶の一撃を放つ。

「はい、はーい。時間もあまりないので掃除しますよー」

「「「「はーい」」」」

 そのトーンで縫至答が皆に何か告げた時は、これ以上ふざけてはならないということを知っている面々であった。


 掃除がひと段落し、部室もまあ正常に使えるようになったところで、全員が長テーブル周りの席に着いた。

「それじゃぁ、今日のここでの本題、ね。あ、お掃除お疲れ様でした」

「「「「おつかれさまでしたー」」」」

 縫至答の労いの言葉に、不満、すっきりしたという爽快感、疲労感、なにも考えていない、というような四種四様の答えが部室に響き、しかしそれでも縫至答はまあいいかと話を続ける。

「さてと。部室を与えてもらったからと行って、私たちはまだ正式な部活、というわけじゃあありません」

「そうなんですよね」

 西央が呼応する。

「そう。正確にはまだ、同好会扱いなのよね。で、じゃあどうしたら部活にできるかっていうと、2週間以内に明確な活動目的と活動目標を決めて、3ヶ月以内にその実績を顧問に提出し、そのうんぬんかんぬんを学校側に認めてもらう必要があります。と、いうことで、まずはその活動目的なんだけど…集まってみたはいいけど、なにしたい?」

 縫至答が4人に問いかけるが、一瞬静寂のとばりが降り、打ち破ったのはやはり、

「はい!はいはい!」

 華厳だった。

「はい、りりあん」

 縫至答の指名に起立して答える華厳。

「昼寝!!」

「却下」

 縫至答、絶対零度の即断。

「えー!なんで!!みんなでここで昼寝しちゃえば活動目標も達成!速攻部活に昇格!いえい!楽勝!」

「イエイ!楽勝!じゃないでしょりりあん。それじゃ学校には認めてもらえないよ絶対」

 絶対これならできるという勢いで自らの意見を放ち切った華厳をたしなめたのは西央である」

「ベニちゃんのいう通りよ、りりあん」

「ぶー」

「あ、じゃあ、こんなのどうです?自主学習部」

「却下!ゼッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッタイ却下!」

 八飛宮の意見に被るようにして鬼の形相で拳を振り上げながら喚き散らす華厳である。

「でもそれならたしかに学校に通しやすくはある」

 受けたのは君塚だ。

「やだよ!?なんで部活で勉強しないといけないの?!勉強以外のことをするための場所が部活でしょう!?課外活動!!!」

「りりあんにしてはまともな意見ね」

 縫至答が反応する。

「まあ、案としておいては置くとして、他に何かアイディアのある人ー?」

「ほい」

 ほいさ、というように手をひらりとあげたのは君塚だ。

「はいどうぞ?君塚子々吏」

「せっかく全員キャリアんなだから、そっち絡みってのはどうよ。例えば放課後、いっつもあたしの陣展開して中でドンパチやりまくるとか」

「却下」

 今度の却下は縫至答だ。

「なんで!?」

「学校側に伝えることはできるけど、全校生徒になんて紹介するのよ。キャリアがノーリスクの空間の中で腕と足吹っ飛ばす部活です、っていうの?」

「吹っ飛ばすのはあんたがあたしに容赦ないだけだろ縫至答!」

「……まあそうか」

「おい!?」

「まあ、意見としては一応。べにちゃんはなんかある?」

 縫至答がそれ以上の会話は無駄、とばかりに話の矛先を西央に向ける。

「うーん。考えてることは一個ある、よね、のうちゃん先輩」

「ま、まあ、前ちょっと話したね」

「なんだよー二人して仲よさそうに」

 華厳が拗ねるが、二人は意に介さない。

「えっとね、ボランティア部」

 縫至答が、申し訳なさそうに告げる。

「……はぁ?ボランティア部ぅ!?」

 華厳が不満を爆発させる。

「うん。これなら、校内いなくてもいいし、能力使った活動も学校にそこまで公開しなくてもできるかなって思って」

「完全に活動の幅をごまかすだけの部活だけどね」

 縫至答の言葉を引き継ぐように西央が続ける。

「もちろん、法律に抵触するようなこととかはできないけど、何かを明確に決めきるより、この方がいろんなことができるなぁって思って。学校も、これならすんなり受け付けてくれそうだし」

「ま、まあ、一理あるか」

 縫至答の補足にうなづいたのは君塚だ。

「……へー!なんかいいかもですねぇ!楽しそう!」

 八飛宮もなにを想像しているのかわからないけれど乗っかってくる。

「それに、これなら、外で参加者募集しても怒られないかもしれないって思って。怪我とかの危険性のある活動は無理だけど」

「外で参加者を募集?」

「うん。あくまで例えば、だけど、ゴミ拾いとかやろうとした時に、私たち五人じゃラチがあかないじゃない?そういう時に参加者を校内外から募ってみると……」

「あ!くらんちゃんも参加できるのか!」

「正解。さすがりりあん」

「いいなそれ!そうしよう!決定!」

「みんなはどう思う?」

 縫至答が全体に投下した疑問だが、答えていないのは君塚だけだった。

「ふーん。なんか地味であんまピンと来ねーけど、確かに活動の幅が作れるってのには納得できる。あたしはいいよ」

「よし、じゃあ、決まりね。これで提出しておきます。じゃあ、ちょっと早いけど、今日は解散!」

 縫至答の号令で皆散り散りになるかと思いきや、結局その後も5人で部室を出て職員室に書類を提出し、五人そろって下校した。

 私立酉乃刻高校、星籠部が、正式発足に向けて動き出した初日だった。

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