cASE_NO:000-6-edD Of BEginninG-[diStUrbaNce:Ⅰ]


 縫至答乃ほうしとうの帝智ていちによって通された応接室は、管理部棟のエントランスのように瀟洒な内装だった。

 いくら来客を招き入れるための場所とはいえ、これではまるで一企業の社長室の様だった。

「こんなところ使っていいんですか?」

「管理部に来客っていうのは、そんなにないと思うよ」

「そうですか…」

 帝智が縫至答を奥に通し、促されたソファに座るとテーブルを挟んで帝智と斜向かいに向き合う形になった。

「…それで、聞きたいことっていうのは?」

 帝智が、手持ち無沙汰にしている縫至答に対して切り出す。

「その話からでいいんですか?」

「状況は大体見ていたし、実力行使がなかったのは先ほどの牟峯来くんの発言からも認められている。彼女はそれぐらいの権限があるから現場に来ているのだからね。であれば、その件については、君塚くんの聴取が終わって彼女が合流してからでいいだろう?というか、その方が話が早い」

 諭すように帝智がいうと、縫至答は納得したように、はい、と返答した。やや俯いている顔は首ほどまでに伸びている綺麗な髪のツヤに隠されて、帝智からすぐには見て取れない。

「…先生、ムーンギフトを使った、というか、キャリアを集めた集団って、あるんですか?」

 視線を、目の前のテーブルに落としたまま、不安げな声で縫至答が切り出した。

「ある意味ここもそうだけど、まあ徒党は組んでいないか。犯罪集団とか武力集団ということかな?」

 対する帝智の声色は揺るがない。聞く人が聞けば不遜とも、態度が大きいとも取れるその声色に、しかし縫至答離れているのか、そのまま返事をする。

「…はい」

「あるよ。明らかな犯罪集団もあれば、そうでない、グレーゾーンにとどまっている組織もある。その人的被害に比べればまだ無害と言える、宗教的な集団も数多く存在している、とは聞いたことがある。そこに関しては、おそらく管理部に聞いた方がいいかもね。一応そういったキャリアの風紀に関しては、国内では斑鳩が最大手だしね。9課にもよく協力してるし」

「9課?」

 縫至答は初めて聞く単語に、帝智の顔を見上げて首を傾げた。ムーンギフト関連の情報は日々ネットでも検索しているが、未だ目にしたことがなかったからだ。  

「ああ、知らないか。警視庁のムーンギフト・キャリア案件を扱う特殊な部門だよ。まだMGC案件は、国には軽視されてるみたいで、3人しかいないんだけど」

「へぇ…」

 素直に驚く縫至答。調べたら出てくるかな、という憶測がよぎるが、顔には出さず、追求もしない。向こうから詳しい説明がないということは、帝智が伝える必要がないと判断しているということだ、というのは、長年の付き合いで知っている。

「で、それがどうしたんだい。今日のあの輩のことかな?」

「それとも関係はあるんですけど、ちょっといろいろ調べていたら、やっぱり私たちみたいな人間、キャリアが集まって何かやるって、やめた方がいいのかなって思って…」

「部員のみんなが心配かい?星籠部部長」

 私立酉乃刻高校で星籠部を結成したこと、それが全員ここにも来たことのあるキャリアであることは、ゴールデンウィーク中の実験協力の際に話していたことを、帝智は覚えていてくれたのだろう。

「……はい。考え無しすぎたかなって」

「そんなことはないでしょ。徒党組んだっていっても、別に悪事を働こうってわけじゃないし。或終同盟みたいな準備組織になるつもりでもないんでしょう?」

「!!」

 最後の単語に、縫至答が反応した。ハッとしたその表情に帝智がニヤリ、と不敵に口角を上げる。

「何で知ってんだ、って顔だね。そりゃまあ、ここは斑鳩だからね」

 それだけで説明になるだろうという口振りである意味においては不遜だったが、それでも縫至答は納得する。そう、ここは世界中でもMGC(Moon Gift Career/Carrier)の研究管理・情報収集においては世界トップクラスなのだ。ここが把握していなければ、それは当事者のみぞ知り、世界に把握されていないという事になるほどの施設なのだ。

「…すみません」

「謝ることじゃないよ。けどまぁ、あいつらには気をつけたほうがいいよ。まだ事件にはなっていないけど、思想自体は穏やかなものではないから」

 その言葉に、縫至答の心が、突風に吹かれた木々のようにざわり、とした。

「どういう集団なんですか」

「ん…端的にいうと、終わりを集めていくことを目的としている。正直初期の或終同盟はまだ思想的なことだけだったんだけど、最近ちょっと現実的に動いてるみたいなんだよね。ネットで調べても少しなら情報は転がっているよ。同盟者自体は結構多いし」

「…そう、ですか」

 嫌な予感が、一瞬の恐怖を経て心配に形を変える。あいつ、祭紀が、明らかに華厳 莉理亜の名前を出していたからだ。

 そんなことを思うと、縫至答の顔はまた俯く角度に戻ってしまう。

「どうしたんだい?何か言われた?」

「…実は、同じ部の一年生である華厳けごん 莉理亜りりあに用がある、って言ってて……」

「或終が?」

「はい。取りまとめている人物が、何か目をつけているようなんです」

「ふむ……華厳くんか。レポート見た気がするな。ちょっと話は飛ぶけど、明日、ここに連れてこれたりするかな?」

「予定さえ合えば」

「できれば最優先で。或終同盟が目をつけているとしたら、おそらくその子の持っている能力だろう。でも、どこからその情報を…あ、もしよかったら牟峯来むねきくんが来る前に連絡しちゃっても」

 その時である。扉がノックされ、挨拶の後で牟峯来が入ってきた。

「失礼します。お話中でしたか?」

「大丈夫。聴取優先だし。あ、じゃあ連絡は後で。話し終わったら牟峯来くんにも相談してみるといいよ」

「はい」

 入室した牟峯来は帝智の横に腰掛け、帝智と並ぶ形になる。ややこわばったような、不安なような、先ほどとは明らかに違う縫至答の表情に一瞬違和感を覚えるが、それは無視されて、聴取が始まった。

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星籠セクステット〜6th in the Lunatic〜 cASE:NO:XX 唯月希 @yuduki_starcage000

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