第25話 競技前の一幕

 あぁ、とうとうこちら終わってしまったァ……。


 ……はい。ストックというか、連載はこれで打ち切り。イミティ先生の次回作にご期待をという感じになっておりますが!

 (続きは後書きで)


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 障害物競走と言えば、この世界の障害物競走には実際どんなものがあるのだろうか?

 俺の予想、万世界において借り物競争は入っていると考えているが、『好きな人』なんてお題が入ってたらどうしよう……ソティを連れてったらもう誤解は解けないし、かといってリーゼロッテに頼めば震えるような睨みを貰いそうだ。

 あぁ、こういう時叶恵とか美咲が居ると、何ら誤解を招かなくて済むのに……暗黙の了解というやつで。


 「ククク、不安そうな面してるな」

 「……そう見えるなら俺もまだまだなんだろうな。というか、お前もいたんだな、気が付かなかった」


 しょうもないことを考えていると、突然隣から声がかかるが、そちらを見なくとも誰かはわかる。


 マルコ───正直あの那由多さんよりも、謎といえば謎だ。実力はともかく、立ち位置があやふやすぎる。

 買収などという言葉もあれば、理事長はマルコを信頼しているような素振りだった。かと思えばあの那由多さんといっしょにいることがあったり、意味深な態度を取ったり……。


 その割には、以前に大食い競走とでも言うべき馬鹿なことをした時、食堂のおばちゃんからはよく思われていて、こちらとも勝負をした……あの時はソティの一人勝ちだったが。


 ともかく、マルコに関しては俺も読み切れない部分が多い。完全なる悪には見えないし、傲慢さはあるが、それは貴族特有のものではなく、彼の根元に何かがあるような気がしてならない。


 だが、現時点でいえばどちらかと言うと印象は悪い方だ。


 隣からかけられた声に、俺はそちらをむくことも無く答えると、マルコは鼻を鳴らす。


 「ハッ、いいぜイブ。その、俺を歯牙にもかけない態度。中々出来ねぇ事だ」

 「それは光栄だな」


 そこに見えるのは悪意などではなく、純粋な興味。しかしすぐにマルコは、少し声を潜めるように話してきた。

 他のクラスの選手も居たが、彼らは一様に距離を取っている。マルコは悪い噂もあるし、そういうことだろう。


 「───あのタヌキじじいの話、お前はどう思ってんだ?」

 「理事長の、魔物を取られたという話か?」

 「あぁ、エルフの精鋭であるじじいが、魔物が盗まれる瞬間をそう易々と見逃すと思うか? しかもそれを分かってからすぐに教師共を外に追いやった〃〃〃〃〃〃〃。見つかる可能性は低いと踏みながらだ」

 「……つまりあれか、お前は理事長がわざと見逃したと?」


 むしろ聞き返す。それ自体は俺も疑ったことだし、理事長もまた少し読めないところがある。

 マルコ自身その可能性を疑っているのかは知らないが、一応俺がその可能性を考えているとは表に出さないようにしておく。


 「それ以外にどうある? それとも、あのSSSランクの魔物を余裕で倒すようなじじいよりもヤバい奴〃〃〃〃が何人もいるってか? 転移系統の魔法をまず複数の魔物に使うことすら難しいってのに、それをじじいに悟られずに実行することが出来る化け物が?」

 「可能性は少なからずあるだろうが」

 「ハッ、それは───イブ、お前とかか?」


 ニヤリ、確かに笑った気がした。


 別に誘導した、という訳では無いだろう。それだったら恐らく気づくし、悪意としてわかる。

 だから恐らく、これはたまたま。


 「理事長と本気で戦ったことは無いからな」

 「クク、あのじじいと戦ったことがあるだけでも有り得ないことなんだがなぁ……ますます面白い」


 品定めをするようにぎらついた目付き。それで商品の価値でも確かめてるなら、商人になれる素質あるよ。

 ハルマンさんといい勝負するんじゃないか。体型も近いし。


 「俺の血が騒ぐんだよ……てめぇがここで一番強ぇ〃〃〃〃ってな。前にナユタのじいさんをけしかけた時も、てめぇは少し警戒しただけで、危機感は覚えなかった」

 「……あの人は爺さんじゃないだろう」

 「俺が分からないとでも? 実年齢と見た目が違う例なら、近くにいるだろうがよ」


 ……理事長エルフのことか。いや、それよりも、となれば那由多さんが勇者であるという可能性をそれは裏付けしているのではないか。

 人間はどう抗っても歳には逆らえないはずで、那由多さんが人以外の種族でないのは明らか。エルフ以外にもいくつかの種族が存在するこの世界でも、人と見分けがつかないものはほとんど居ない。一番近いのがエルフで、そのエルフは横に細長い耳と、透き通るような白い肌が特徴だ。


 そして、人の身でありながら歳を取らないのは、それは不変の存在であると推測している勇者でしかない。時空魔法を極めた、というのは少し、いやかなり厳しい可能性だろう。


 「それを言うなら、そもそもナユタのじいさんを認識できただけでもやべぇんだな……」

 「気配を断つのが上手い、か」

 「尋常じゃねぇぐらいにな。その点、あのじいさんも中々食えねぇが……てめぇは上だ〃〃。謎という意味では、てめぇの方がわからねぇ」

 「俺からしてみれば、お前の方がわからない、マルコ」

 「俺はわかりやすいさ───ただ己の欲望に従って、感覚で生きているだけ。目的も何もかもハッキリしねぇてめぇより、よほど理解されると思うぜ」


 眉を顰める。『目的も何もかもハッキリしない』、その言葉だけ、表面上ではなく、確かに俺の思考に突き刺さる。

 

 マルコは、ただ感じたことを言っただけに過ぎないだろう。だがそうでは無い。会って間もないマルコに、そう理解されたこと〃〃〃〃〃〃〃〃〃が嫌だった。


 「……はんっ、なんだ。言うほど分からなくはないか」

 「そうだな、俺はわかりやすい人間だ」

 「確かに、性格は理解しやすい。温厚で頭が切れる、他者のことをこれでもかと言うぐらい理解していて……自分のことだけは、全く理解出来ない、考慮できない、他者を立てることしか能がない」

 「………」

 「こいつは謙虚に見えるし、誰からでも好かれる。そのクソみたいな優しさに有象無象は惹かれる。精神的にも強くは見えるが……その実、理解しすぎるからこそ、踏み込んだ話になると途端に弱腰になり、最後の最後で周りを不幸にさせ、期待に応えられなくなる─── 典型的な、愚者の英雄〃〃〃〃〃タイプだ」


 淡々と、的確な言葉を確認事項のように述べていく。もしかしたら精神的に削ぐ作戦なのかもしれない。だがそれにしては、マルコの表情は無理矢理だった。

 吐き捨てるように感じたのは、気のせいではないのかもしれない。


 「ここまでなら、別に大したことじゃない。英雄気取りの能無しは探せばいくらでもいるからな───だがてめぇは、その度が過ぎている〃〃〃〃〃〃〃。他者を理解するというのが、感情、思考、性格、癖といった全てに出てる。まるでてめぇの目の前に立つだけで、過去の全てを覗かれているような気分だ。それを意図的に抑えているように見えるのもまた───」

 「今日は、よく喋るなマルコ」


 俺は意図的に遮った。マルコの次の言葉は予想できる。その先の話が分かる。

 そしてそれを、俺はよしとしない。マルコはそのまま意地にでも続けることはせずに、笑った。


 「クク、なぁに、ちょっとしたお遊びだ。待ってる間暇だからな……そう怖い顔をするな、イカした面が台無しだぜ」

 「他人に知ったような口を聞かれるほど、嫌なことは無いと思うけどな」

 「はんっ、知ったような、じゃねぇ……知ってんだよ」


 表情を見る。その時には取り繕ったような、下卑た笑みが張り付いていた。


 最後の言葉は果たして聞こえるように言ったものなのか、判断がつかない大きさだったが、一つ理解できたことはある。


 マルコは、どこか俺と似ている〃〃〃〃〃〃

 性格ではない。もちろん見た目でもない。


 だが……根元が似ている。いや、もしかしたら似ていた〃〃〃〃、が正解なのかもしれない。


 そうと、別に意識していない俺が分かるほど、最後の一瞬は感情を、思考を露にさせた。

 言葉一つでも理解出来る。出来てしまう。マルコがどうして俺に興味を持ったのか。目をつけたのか。

 目立ったからでも、俺という存在が特殊だからでもない。


 「……似てるからか」

 「あ?」

 「ウザイなと思っただけだ」

 「そいつぁ光栄だな、そう思われるようにしてんだからよ」


 バレるとわかる嘘を述べる。俺の態度は依然としてぶっきらぼうだし、マルコの態度も変わりない。


 だがそれでも、他者のことをわかってしまう俺は、それで理解した。こいつの事を、その瞬間だけは、思考が反応してしまったから。

 今までの会話と、表情の奥に見える感情───思考。

 それらを統合し、一瞬のうちに俺はそう結論を出す。


 今回の件も、前回の件も───こいつは何も知らない〃〃〃〃〃〃

 

 


 ◆◇◆





 その時、レオンもまた競技開始の合図を今か今かと待ち構えていた。周囲には優秀な者揃い。だが、レオンが警戒しているのは特別クラスのみで、その特別クラスは競技の方には参加していない。

 あちらは純粋な戦闘派が多く、闘技戦と魔物戦だけに毎年出場するのだ。正直、それは有難く、レオンも彼らとはあまり戦いたくない。


 だがそうでなければ、よほどクセのある障害物が来ない限り、走る速度では負けないし、魔法は苦手な方ではあるものの、それでも平均よりは上手く扱えるため、問題なく一位か二位辺りでイブに渡せるだろうと考えている。


 しかし、何事にも例外はつきもの。


 「貴殿は確か……イブ殿と同じ組の者であったな」

 「え? いや、まぁ、そーだけど……」


 突然声をかけられたレオンが振り向けば、そこにはいつの間にか、長身の男が立っていた。気配などなく、ましてや、存在感もほとんどない。

 それもあって一瞬、誰だか理解ができなかった。だがすぐに、レオンは何時かのマルコが押し入ってきた時を思い出す。


 そういえば近くにこんな人が居たような気がしないでもない、という曖昧な記憶だが、取り敢えずレオンは頷いておいた。この競技では各クラス二組ずつ選手が出場しており、この場には全部でレオンを含めた八人の選手がいるが、一組の選手の一人が目の前の男なのだろうと思う。


 レオンはその性格から物怖じしないタイプだが、目の前の人物に関しては少々どういう態度を取るかで困っていた。見た目はレオンと同い年か、一つ二つ上程度に思えるが、雰囲気がそうでは無い。


 「そうか。して、彼はこの競技に出ているか?」

 「一応、俺の後に……」

 「ふむ、ならば丁度いいのかもしれぬな。貴殿ならば彼に問題なくバトンを手渡すことが出来るであろう。良き縁に巡り合わせたと見る」

 「えっと、結局アンタは何なんだ?」


 話もしたことない、ほぼ初対面であるのにも関わらずそんなことを聞いてくる男に、レオンはうんざりしたように聞き返した。

 イブのことを気にかけているのはわかる。しかし、何が言いたいのかが一向にわからない。


 そうレオンが言えば、男は遠くを見ながら答えにならない答えを紡いだ。


 「なに……知人から受けた頼まれ事を果たしているに過ぎない、ただの老いぼれよ。貴殿は気にせず、ただ勝つことに集中するといい」


 

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 何度も言っていたように未完でこの作品は終わってしまう訳ですが、同じようにリメイクも書いています。

 今後はそちらを投稿することになるかと思います。現在四十数話。文字数は20万文字弱。

 

 あぁそうそう、リメイク作品ですが、話は丸々違います。第一話がギリ似ているぐらいで、第二話以降展開は全く異なります。腹黒王族要素も無くなります。似てるのは世界観と、キャラクターぐらいです。


 (あと主人公最強は依然として続きます。それは私の作品の特徴なので)

 (あとあとシスコン要素は強めです。刀哉の特徴なので)

 (あとあとあと学年ではなくクラスが召喚されたことになるので、勇者は減ります)

 (あとあとあとあと最初は今作よりシリアス強めです)


 タイトルは、学年召喚要素と腹黒王族要素が無くなってしまったので大改名し、『見出された運命の先に』……最近の小説にしてはシンプルでインパクトに欠けるタイトルですが、響き的には気に入っているので良いかなと。


 明日の22時までには新たに投稿しておきますので、引き続き読んでやるよという方は、その頃に私の投稿作品欄からか、もしくは『見出された運命の先に』と検索をかけてくださいな。


 なろうとかでは一応好評です。

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俺の学年が勇者として召喚されたが、俺は早速腹黒王族にマークされたようです イミティ @imity

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