(終章) 月白の本

 ここに一冊の月白げっぱく色の本がある。

 シンプルだが、しっかりした丁寧な装丁。

 四六判の大きさ。


 表紙を開いても、白紙で何も書かれていない。


 ただメモ用紙が、しおり代わりの様に挟んであるのが見える。

 本の横には古ぼけた万年筆が一緒に置いてあって、そのメモ用紙には濃紺ブルーブラックの文字で


 ☾【月白げっぱくの本】1ページだけを、あなたの自由にお使いください。つむがれた夢の欠片かけらは差し上げます ☽

 と書かれている。


 ◆


 月は何かを与えたりはしない。

 ただ、見守り、そっと寄り添っているだけ。


 月は知っているのだ。

 不思議とか奇跡とか呼ばれるものの、できることが、本当は少ししかないことを……。


 何もかもを無条件に与え、叶えてくれるものは確かに魅力的だけれど。

 そうして手に入ったものは、真実ほんとうに自分自身のものだろうか。

 もしも、そこからまた挫折した時に、また立ち上がることはできるのか。


 だから、月は気づかせるだけ。

 切っ掛けを与えるだけ。


 淡い明かりを道標みちしるべに残すだけ。


 そこから、どんな風に生きるのかは、その人間ひと次第。


 それでも、

 不器用で優しいもの達が愛しくて。

 せめて、その背をそっと後押しするように……


 たまに……月は、こんな気まぐれをする。


 ◆


 この本は時々、あまり人の来ないような小さな公園のベンチに、古ぼけた万年筆と一緒に置かれている。


 もしも……いつか、見かける時があったら開いてみるといい。


 この月白の本は、あなたに大切なことを思い出させて、夢の欠片もう一度、踏み出す力を与えてくれるかもしれない。

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月白の本~小さな不思議の物語~ つきの @K-Tukino

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