第十夜 「ふたたび新月」 朔(さく)

 今夜は新月。月が見えない夜。

 月の光が失われた直後に生まれるといわれ新月に願いごとをすると叶うという。


 公園側の街灯が横にあるベンチをほのかに照らしている。


 さくは、そのベンチに一人座っていた。

 無造作なショートカットの髪に黒目がちな一重の切れ長の瞳、大きめの黒のТシャツにハーフパンツ。月長石ムーンストーンのペンダントを首から下げている。

 裸足に踵を踏み潰した白いスニーカーを履いた姿は一見、少年のようだが、長い睫毛まつげと色白で線の細い姿はボーイッシュな少女の様にも見える。

 年の頃は15.6歳くらいに見える。


 膝の上には月白げっぱく色の本。


 細い指先で1ページずつページを開いていく。


 ページ同士が貼り付いて開かなかったはずなのに、不思議なことにさくの指先が触れるとハラリと解けるように開く。


 1頁目…… 2頁目……さくページをめくる。

 めくる度にホワリと柔らかな明かりが夜空に昇っては散らばっていく。


 全てのページを開き終わった後、さくは、そっと本を閉じると、柔らかな明かりが昇って散っていった夜空を暫く見つめていた。


 そして本と万年筆を手にすると、ベンチから立ち上がって公園を出て行った。

 後ろ姿は薄く闇に溶けた。


 ◆


 月の無い夜、ある小さな公園。



 新月は始まりの時間。

 新たに生まれ、そこからまた育っていく。


 さくは始まりを見守る子。

 ごくたまに、強く信じあう声を届けることもある。想いが深ければ。

 さくは新月の化身けしん



 街灯に照らされたベンチの上には一冊の本。


 本の横には古ぼけた万年筆が一緒に置いてあって、その本に挟まれたメモ用紙には濃紺ブルーブラックの文字で


 ☾【月白げっぱくの本】1ページだけを、あなたの自由にお使いください。つむがれた夢の欠片かけらは差し上げます ☽


 と、あった。

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