最終話 帰還
「失敗しないわよね?」
「しないよ。大体、今回のは父さんの術だよ!」
ミーアの言葉に思わず言い返してしまう。ミーアは安心したように微笑んだ。
「お姉ちゃん、心配しすぎ」
リルが呆れたようにそんなことを言っている。その側でフランクが笑っている。それを見て、クレオパスとミーアもつられて笑う。周りからもちらほらと笑いが聞こえてくる。
ミーアと両思いを確認した後、二人で仲良く家に戻った後で、リルから『友達以上から始める? ことになったよ。友達より上ってどういうこと? フランクくんは「友達よりもっと仲良い事」って言ってたけど』と報告と質問を受けた。
ミーアは『じれったすぎる!』と頭を抱えていた。でも、恋愛初心者相手にしてはフランクはよく頑張ったとクレオパスは思っている。リルの話だと、多少は自覚したようだし、そのうち嫌でもフランクに理解させられるだろう。
何せ、二人ともまだ十四歳なのだ。ゆっくりでいいと思う。
こちらは彼らと同い年の『十四歳の少女』に急かされてしまったのだが。
クレオパスとミーアは、お互い、初めての恋愛が遠距離恋愛になってしまった。
大丈夫だろうか、と本人なのに、いや、本人だからこそ、心配になってしまう。
そして、一応お付き合いをしているとはいえ、まだキスすらしていない。クレオパスの部屋でそれぞれ勉強をするくらいだ。頬ずりをはされたが、それだけでもなんだか恥ずかしい。
二人のお付き合いのことを秘密にするのはどうかと思ったので、お互いの親には話した。カーロは複雑そうな顔をしていたが、ミメットは『さすが私の娘ねえ』なんて呑気に言っていた。
父は『悲しませないようにしなさい』と言われた。当然『もちろん』とクレオパスは答えた
そして、リルに『恋人未満』の男の子が出来た事は彼女のクラスでものすごく話題になったそうだ。『なんでみんなこんな事に興味あるんだろう。わけわかんないよ』とリルが呆れていた。
あとでこっそり聞いたキュッカの話では、恋愛のれの字も知らなそうなリルの初恋はとてもおめでたい事なのだそうだ。『……つまりリルのクラスメイトはリルが大好きなのね』とミーアが苦笑していた。
そんな事を回想しているのは、今日はクレオパスがミュコスに帰る日だからだろう。
カーロの家の庭には獣人家族、シモンとアマーリャ、フランク、そして何故かリルのクラスの女子達が勢揃いしている。きっと、ジェマ達もいたら見送りに来てくれただろう。もうアーロンを連れて実家に帰ったのでここにはいないが。
こんなに見送ってくれる人がいるのは本当に嬉しい。
「今まで色々とありがとうございました。本当にお世話になりました」
みんなに向かってきちんと挨拶する。ミーアの目が寂しそうに潤んだ気がした。
「クレオパス君の部屋はそのままにしておくからね。ね」
ミメットがクレオパスでなくミーアにそんな事を言った。きっと寂しがっている娘をなだめるためだろう。
「じゃあ、あたしが家にいる時は毎日お掃除する」
「ありがとう」
ミーアの好意が嬉しい。心から笑顔でお礼を言う。ミーアも嬉しそうに笑った。
「クレオパス、そろそろ行くよ」
父が声をかけてくる。クレオパスは『うん』と答えて父の側に寄った。とは言っても数歩も離れてはいなかったが。
父はクレオパスが側に寄ったのを確認すると、二人の足元に転移陣を張った。そして発動前で止める。
「あれ? 『まほうじん』って、丸から書くとか言ってなかったっけ? そこに文字を手書きで埋めるって」
「それは初心者向けのやり方だね」
リルと父のやりとりにがっくりとうなだれてしまう。実際初心者だからこそ、つけこまれたのだからなんとも言えない。
「頑張らないとね、クレオパスさん」
ミーアがからかい混じりにそう言ってくる。でも、そうやって頑張る事が未来に繋がると分かっているから素直に『うん』と答える。
不意にミーアが近づいてきた。そうしてクレオパスの頬に軽く唇をつける。
「み、ミーア……」
びっくりして名前しか言えなかった。ミーアは茶目っ気たっぷりに、うふふ、と笑う。
ミーアの方が上手だ。
近くにいるリルの友達がキスを見て、『きゃーっ!』とはしゃいでいる。
「お互い頑張ろ」
「うん。頑張ろう」
そう言い合う。
その後で、ミーアは名残惜しそうに離れていった。
父が陣を発動させた。しばらくすればみんなの姿がぼやけていくのだろう。そうして景色が変わるのだ。でも安全な転移だから心配はいらない。
大丈夫。
手を振ってくれるみんなに手を振り返しながらそう考える。
少しだけ寂しいけど、永遠に会えないわけではない。
この猫と犬の街に挟まれたこの家が、そして大好きな住人たちが、またクレオパスが来る時を待ってくれているのだから。
猫と犬に挟まれて ちかえ @ChikaeK
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます