野の花たちの青春歌
いつの間にか涙があふれてきて止まらなかった。ずっと泣き続けていた。こんな情けない俺でも信じてくれる人がいるんだ。
「洋介……」
親父の声がした。振り向くと、親父が立っていた。親父の姿を見ると、また涙がどばどばあふれてきた。親父はしばらく突っ立っていた。
「洋介、何をしているんだ!」
俺が図書委員便りの黄ばんだ紙を泣きながら見せて、
「まだ持っていてくれたんだね」と言うと、親父は「そうだよ」と言って、出て行ってしまった。しばらくしてお袋が飛んで来た。
「あんた何やったの。お父さんにひどいこといったんじゃないの! お父さん泣き崩れているわよ」
お袋が甲高い声でわめき散らす。そんなことを気にせず、泣き続けた。
そうだ。おれも青春を送ろう。イッちゃんと中村さんと生身の心でぶつかりあえるようなそんな戦友になりたい。そして、いつか親父と本当の意味で分かり合いたい。そして何のために誰のために小説を書くのかを見つけ出したい。その為にも……。
俺はそっと部屋に戻り、もの思いにふける。
自分の頭の中でごちゃごちゃだった考えが次第に整理されていく。
イッちゃん、俺グループから離れるよ。今のままじゃ仲良しごっこになっちゃう。イッちゃんと中村さんとはお互いに切磋琢磨しあえる同志でいたい。だからごめん。
決まってしまったら、何か気持ちがすっきりした。明日からまた独りだ。でももう怖くない。嫌われるのならそれでもいい。でも金魚のフンでいるよかマシだ。将来、イッちゃんと中村さんと笑ってビールを呑みかわしたい。そして親父とも……。だから今は……体当たりで青春を送るために一人になる。それが正解か不正解かは分からない。でも今は……
窓を開け、空を見上げると、雲がすごい早い勢いで流れていた。冷気が部屋に入ってくる。そろそろみかんの季節だな。こたつの季節だな。そんなことがふと頭によぎった。おかしくなってふと笑う。が、両方の目からは涙がとめどなくあふれて止まらなかった。
完
青春の始まり 澄ノ字 蒼 @kotatumikan9853
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます