第26話 串焼き風の合成タンパク質

 その日は珍しく追加の配給があった。

 もちろん機動警察の職員は体格に応じて厳密にカロリー計算がなされ、食料配給は遅滞なく行われている……ことになっているのだが勤務によっては必ずしも補給のある署とか拠点に寄ることができるわけでもないので状態はまちまちだ。


 たまたまササキは拠点のひとつ、第128-0001監視哨に立ち寄っていた。

 この近くには環境省の実験農場もある。


 監視哨はいわゆる機動警察の拠点のひとつで数名の職員が常駐している。

 古代では「コウバン」と呼ばれていたと聞いたことがあるが、昔の警察官も配給食に飽き飽きとしていたのであろう。


 実験農場は衛星からの砲撃でできたクレーター跡地に作られている。

 ドーム状となっていて200mくらいの直径がある。

 古代の遺跡から発掘した素材を利用していて、内部では青青とした何かの背の低い植物が葉を茂らせていた。


「おーササキ中尉」

 声をかけてきたのはヘストン機動警察曹長だ。この監視哨の班長をつとめている。

 黒黒と日焼けした顔から真っ白な歯がのぞいていた。長年の勤務と日焼けでしわが寄っており、たしか50歳代だったと思うのだがもっと上の年齢に見えた。


「ヘストン曹長」

「ひさしぶりだなぁ……ちょうど昼飯時間だし配給の回収かい?」

 階級差はあるのだが妙に気が合う部分もあってよく話す仲となっていた。

 彼は白っぽい立方体状の監視哨の天井に日除けの傘を広げ、サマーベッドに寝っ転がって機銃の銃把に手をかけていた。

 管理者が見たら処分されかねない勤務態度だが、こんなところまでわざわざ彼らは見にこない。


「いえ昼飯は軽く食べたので……」

 数時間前に以前食べた自律型工作機械を見つけたのでちょっとした昼飯を済ませたばかりだったのだ。

「おぉーそうかい、今日は追加の配給があるけど興味あるかい」

「あります」

「じゃあ寄っていきなよ」


 ヘストン曹長が招き入れる。

 この監視哨はこのあたりの古代都市の欠片を混ぜて作った土を固めて作られていた。骨組みとなった木材の上に泥を重ねて作っただけだがそれなりに強靭だ。


 中は案外広く、3人分の机にちょっとした休憩スペースまである。

 事務官のセルマが何やら端末にデータを打ち込んでいる。

 彼女はちらっとこちらを見たがまた仕事に戻った。


「これだよこれ」

 ヘストン曹長はするすると屋上につながる梯子から降りてきた。

 そのままキッチンスペースにむかって何やら持ってきた。


「これは……?」

 

 ヘストン総長の手には配給用の紙パック。

 すでに温められており、何やら串に肉が刺さっている。


「追加配給でもらった串焼きだ。まぁ食べてくれ。セルマ事務官は要らないというんだ」

「じゃ遠慮なく」


 串に肉が5個ほどささっている。

 どうも鶏肉のようだ。


 さっそく口に入れる。

 暖かさと塩コショウの刺激が伝わってくる。

 肉はジューシーだった。


「おぉっ」

「な? 珍しく美味いだろ? この実験農場肝いりらしくてな」

「たしかに……」


 肉の塊をさらにほうばる。少し焼きすぎているのか固く感じたが美味かった。

 そしてふと気づく。

(実験農場肝いり?)


「これは肉じゃないのかい」

「いやぁ今日は空が綺麗だなぁ、めずらしく砂嵐もないし」


 曹長は銃眼の先を眺めてすっとぼける。

「……何かあるんですね」

「……俺も食ったよ。美味かった……だけどねぇ」


「これ」

 セルマ事務官が何やら鉢植えを奥から持ってきた。

 

「それはここで植えられている大豆……?」

 青々とした苗には枝豆ができかけている。そして


(……さわさわと?)


 ここは無風なのである。

 曹長がササキの肩をぽんと叩く。


「見ての通りそいつは実権植物だ。古代技術の一部の再現に成功したらしい。環境省の管理者のプロジェクトらしい」


 見ると鉢植えの植物はざわざわとうごめいていた。

 くねくねと体をよじらせている。


「えぇっ!?」

「そう、その串焼きはこいつが原料なんだ。大豆を使ったそれっぽいべじ肉は古代からある。だがそいつはその苗の体の……いや、茎の部分を食べるんだ。筋肉状の構造らしく焼いたら確かに肉っぽい味がするんだよな……」


「私は、食べない」

 セルマはそう言って鉢植えをまた奥へ持っていった。


「まぁ……美味いっちゃ美味いんだが……ちょっとな」

「うーん……いや、ご馳走様でした。また寄りますよ」

「あぁ、いつでも来てくれ……どうやらこの改良植物、次の企画が進行中らしいからな」

 そう言って曹長は白い歯を見せて笑った。


――帰り際、ササキは農場のほうを見た。

 ドームの中では何千、何万という苗がうごめいているに違いなかった。しかし味はどう考えても美味い部類の焼き鳥だったのである。



「312457号 改良大豆の茎の串焼き」


――材料 (1人分)

312457号 改良大豆 1本


――作り方

1.改良大豆を収穫する

2.根を切り離して保存する

3.葉っぱ部分を落とす

4.茎の部分の外皮をはがして適当な大きさに切る

5.塩コショウを振る。この時点で茎がうごめいても気にしない。

6.串に刺してよく焼く

7.とてもよく焼く

8.完成


――コツ・ポイント

改良大豆の茎が完全に動かなくなるまでよく焼きましょう

 



 

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ディストピア飯のササキさん ――機動捜査課のめしライフ― Edu @Edoo

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