第25話 奇妙な棚型保存食
警ら活動を行っていたササキがその奇妙なボックスを発見したのは、ちょうど1月1日のことだった。
局地戦争前は新年を祝う習慣があったらしい。しかしササキにとっては平日なら平日で、仕事の日でもあった。
管理者が決めたのだからそうなるのである。
この日、ササキは旧都市群の見回りを行っていた。
自動のガードや重機などが動いていないか、何か管理者の目を逃れた活動が行われていないか、結構大事な仕事である。
このあたりでは現在も一部が使われている文字が多く、古代の甲骨文字をベースにした文字が使われていた。
完全にガラス化した砂漠とクレーター群しかない西のほうのシンプルなタイプでもなく、七曜旧海山列沿いにある小高い山のほうで使われていた複雑なほうでもなく、中庸というような雰囲気の文字だった。
ササキにとっては妙にしっくりくる文字だ。
今日もその崩壊した都市遺跡を回っていると、
「肉屋」「商店街」だの「居酒屋」といった不思議な文字と出会えた。特に「商店街」と名のつくところはどこも物を並べた小さな低層の建物がたくさんあり、天蓋におおわれていたところが多かったようだ。何かの宗教的遺物だったのかもしれない。
とするとこの建物が並んだ小道は参道か何かだったのだろう。
建物はほとんどが崩壊していて、遺構が残っているだけだったりするのだが、古代人のことを想像しながら歩くのは楽しかった。
そうこうしているうちに昼時だ。
「いつものレーションでもいいんだが……」
ササキはこういう時、調査をかねて遺跡の物色をすることにしていた。
もちろんそこで見つかる何らかの食べ物を五感を使った官能試験の対象として記録していくというのも重要な任務なのである。
食事に偏っているという気がしないでもないが……
いまのところ管理者などから文句が出るどころか、むしろメニュー作りまで任務になっているので等級くらい上げてほしいものだ、とササキは思っていた。
比較的原型が残っている建物にササキは入り込んだ。
どうも古代の「商店」か何かだったらしい。宗教的遺物の参道にはよくあるものだ。
このあたりは未探索の区画も多いため、未発掘の遺物も多い。
まだ動きそうな機械や、未発見の資料があればそうしたものを収集することも任務のひとつだ。
内部は思ったより整然としており、棚がいくつか倒れていただけであった。
商品もかなり豊富だったが、そのほとんどは見かけたことがあった。
「おや、これは……?」
その中のひとつがササキの目を引いた。
ちょうど古代の大判の書籍くらいの大きさの箱だったが、蓋の部分は透明なシートとなっている。どうも瞬間分子凍結機を使っているらしく、よく見かける分子凍結済のシールが貼られている。
ということは中身は現代でも無事である可能性が高い。
そのシートから見える中身は実に奇妙だった。
中身自体が格子上に区切られ、小さな食品がそれぞれにきちんとおさまっている。
何やら黄金色のペースト、エビらしきもの、黒っぽい豆の煮もののようなもの、表面がぶつぶつとした三角錐状の何か。
明らかに儀式的な食事と思われた。
「さっそく食べてみるか……」
ササキはその箱をいくつか抱えて外に出る。
比較的崩壊などの危険のない広場のような場所に座り、分子凍結のシートをはがした。瞬時に常温の食べ物となる。
「これは……」
良い匂いがただよってきた。
特に異常もなく食べられそうである。
まずは黒い豆をフォークで突き刺して食べてみた。
「これは……ほっくほく……!?」
適度な甘さと塩味が食欲を増した。
「こちらは甘い……」
黄金色のペーストはどうも芋類のジャムのようだ。
「エビもなかなか……」
エビは現代でもまだ食べられるが、管理区域の中の養殖でしかないので数は出回らない。
ササキが墜落したコロニーの探索で見つけた古代魚は実験的に養殖が始まっているようだが、まだまだ実用化と量産までは道半ばと聞いている。
「この干した魚のようなものもうまい……全体的に塩辛さと甘味が重視されていて保存食のようだ」
もともとは何らかの保存食を、分子凍結機でわざわざ分子凍結する意味合いはいまいちわからなかったが、何らかの宗教的な食事だったのだろう。
「いくつかあるからこれも前菜などの候補になるかもしれないな……それにしてもうまいなこれ……」
ササキはこれを全省庁の管理者がつどって行う晩餐会の前菜にすることを考え始めていた。とするとサンプルはいくつか保管しておかなければならない。そしてこの彩や味からいって十分にその役割を果たすだろうと思えてきたのだった。
「古代おせち料理」
――材料 (1人分)
おせち料理セット1パック(有頭エビ付き)
――作り方
1.シートをはがす
2.食べる
――コツ・ポイント
正規の分子凍結機が使われていることを確認しましょう
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