第24話 古代の儀式用アルコール

「よっ久しぶりじゃな」

 ササキは久々に歴史学者のファーブル博士に呼び出された。

 だぶだぶの作業服を着た背の低い少女に見えるが、少女型アンドロイドである。


「何か見てほしいものがあるとか……?」

 ササキはホバーバイクを接地させてエンジンを止めた。


 ファーブル博士は第129-CQ3135地区に研究所を持っていた。

 研究所といっても移動式のテントだ。

 そばには小高い丘、そしてかなりの深さの竪穴があった。


 テントといってもかなり大きなもので天井も高く、ホバーバイクごと入ることもできるだろう。何やら機材がいろいろと置いてある。


「ここは新たな発掘現場でな。他にもワシと同じ型のファーブルが何機か働いておるが、連中は今新たに発見した遺構にもぐっておってな……」

「メンテとかガードの機械は大丈夫ですか?」

「この遺構は極地戦争時代よりももっと昔のものじゃ。心配はいらんよ。AI新世紀よりもっと前じゃ」

「そうですか……」

「ところでお主の意見がほしいものがあってな」


 ファーブルはとたとたとテントのすみにむかい、古びた瓶のようなものを両手にかかえて持ってきた。

「よいしょ……」


 彼女はテントの中央に置かれたテーブルにそれを乗せる。

 よく発掘されるウォーターサーバの水にも見えるが、どろりと濁っており、中に小石くらいのサイズの何かが入っていた。蓋はしっかりと閉まっている。

 特に何か電子部品のようなものは見受けられなかった。


「よく探索や警らをやっておるお主ならこれが何か想像がつくかと思ってな」

「……ぱっと見では分かりませんが、これは何ですか?」


「うぅむ……ワシもよく分からんのじゃが……」

 ファーブルは小型の端末をその瓶に向ける。

 何かの数字と単語が羅列された。


「この中にはアルコール分がかなりの割合で含まれた液体、そして古代の植物の実が入っているようなのじゃ」

「古代の植物の実……」

「ワシは何かの儀式とか呪術的な意味があったのではないかと思うのだがな……」


 ファーブルは古代に思いを馳せるような表情をした。


「古代の実とはどのようなものですか?」

「なかなか恐ろしいぞ。分析によると、どうも元々は青酸配糖体という糖と青酸が結合した物質が含まれており、大量に摂取すると呼吸困難や目まいなどの症状が出るようじゃ」

「そのような危険なものを?」

「うむ……アルコールに漬けることで毒素は抜けているようじゃがな……古代の名前だとバラ科サクラ属の実……梅と言う植物の実じゃ」

「梅……」


 ササキも想像した。

 何やら古代人が本来なら毒物が含まれている実をアルコールに投入していくのだ。

 それはおそらく呪術的な意味合いがあったのだろう。


 何十人もが一人一粒の梅の実を入れていく。

 アルコールは歴史的には浄化の意味合いを持つことも多かったと何かの講義で聞いた記憶があった。


 そうした毒性を含んだ植物をアルコールで浄化することで何らかの呪術的な儀式となっていたに違いないのだった。


「恐ろしい話ですね」

「うむ……ワシはとりあえずこの瓶を開けてみようと思う。呪術的な意味があったとしても、現代において古代の墳墓を調査するのと同じじゃからな」


 ササキの右手は思わず腰から吊った拳銃にのびた。


「では……開けるぞ」

 ファーブルが瓶に手をかけた。

「んん……開かない……」


 どうやら力が足りないようだった。

 仕方がないのでササキが開ける。かなりの力が必要だったが、何とかなった。


「これは……!」

「むっ!?」


 何とも甘酸っぱいいい香りがテントの中に広がった。

 

「……何やらいい匂いですね」

「……そうじゃな……」


 ファーブルは右手をぱたぱたと動かして匂いをかいでいた。

 

「……うまそうな匂いじゃな」

「飲んでみますか」

「そうじゃな」

「危険はないのですよね?」

「うむ……現在は毒性は体に影響がないレベルになっておる。アルコール度数は20度くらいのようじゃな」


 ファーブルが何やらマグカップを二つ持ってきた。

 液体を注いでみる。


 ササキは一口飲んでみた。

 想像以上に甘さとほんのりとした酸味が感じられた。

 

「……美味いですね」

「うむ、これはいけるのぅ」


 ファーブルは飲み干して、さらに注ぎ始めた。

 アンドロイドだが味覚などのセンサー類の設定は本当によく出来ているようだ。


「いわゆる人間の五感を使った官能評価・官能検査はアンドロイドであっても必須じゃからな、それにしてもうまいのうこれ」


 その時テントの外から人間のぱたぱたという足音が複数聞こえてきた。


「どうやらワシの同型機が帰ってきたようじゃな……おーい面白い飲み物があるぞ」


(古代の呪物から飲み物に変わった……)

とササキは思ったが、その日は3人のファーブルと謎の古代酒で酒盛りをするという不思議な一日となったのであった。



「古代梅酒」


――材料 (1人分)

青梅1kg、氷砂糖1パック、蒸留酒1パック


――作り方

1.青梅を丁寧に洗ってヘタを取る

2.青梅を天日で乾かす

3.容器を熱湯とアルコールで消毒する

4.容器に青梅と氷砂糖を交互に詰める

5.蒸留酒を容器一杯に入れる

6.しばらくすると飲めるようになります


――コツ・ポイント

青梅をよく洗い、容器はしっかりと消毒しましょう

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