第9話【アルティナ視点3】

アルティア視点


私は、直ぐに気を引き締め、被害の状況を確認した。

残念ながら一人の死傷者を出してしまった。

人が一人死んでいるのに幸いなこととは言いたくはないが、被害がこの程度ですんで本当に奇跡だとは思う。

トウマ様が盗賊の接近にいち早く気づいてくれたこと、後ろから来た盗賊を一人で食い止めてくれたことがなければ、被害はもっと出ていただろう。

私も死んでいた可能性も十分にある。


「トウマ様、お怪我はありませんか?」


ゆっくりと私の元に戻ってきたトウマ様に声をかける。


「いえ、大丈夫ですよ。

援軍が早く来てくれて助かりました。

いやー、援軍が遅ければ死んでたかも知れませんね」


トウマ様は冗談めかして言っているが本当に死んでしまう可能性は十分にあった。

何でこの方はこんなに余裕なのんだろう?と疑問に思ったがこの状況で「何であなたはそんなに余裕そうなんですか?」と聞くほど私は空気を読めない女ではない。


「それより被害はどうなってますか?」


「残念ですが死者が一人出てしまいました。

他の人達も多少の怪我をしてますがどれも大事にはいたりません」


「そうですか、一人亡くなってしまいましたか」


トウマ様はとても悔しそうなそう呟く。

この人は本当に優しい人だと思った。普通の人なら出会った時に自分に剣を向けた相手など何人死んでも特に何も思わないだろうと思う。


「気に病まないできださい。

トウマ様が盗賊の接近にいち早く気づいてくれたからこの程度の被害で済んだのです。

トウマ様がいなければ最低でも半数は死者が出ていたでしょう」


「はい、ありがとうございます。

それで、亡骸はどうされますか?」


「持ち帰りたいのは山々ですが怪我人もいますので遺留品だけ持ち帰ることになると思います」


私のために戦って亡くなった人をこんな所に放置はしたくないがどうしようもない。


「提案ですが、私はマジックバックを持っているのでそこに入れて街まで運びましょうか?」


「え!?

本当ですか!?」


マジックバックはとても貴重な魔道具なのに何でもっているのだろうとは思ったが今はそんな話しをしている余裕はない。


「ええ、大丈夫ですよ」


「あの、無理を言っていることはわかっているのですが、そのマジックバックを買い取らせてもらえないでしょうか?

せめて貸してもらえないでしょうか?

必ずお返ししますのでお願いします」


私は誠心誠意、頭を下げお願いする。


「貸して差し上げたいのは山々なのですがこのマジックバックは私専用でして他の人は使えないんですよ」


「そうですか。

専用魔道具でしたら仕方ありませんね」


専用魔道具はダンジョンないで手に入る魔道具に稀にあるもので、その魔道具を最初に触れた人の専用の持ち物となり他の人は一切使えず、所有者が死ぬとその魔道具も消えてしまう。


「街まではちゃんと届けますんでそれで勘弁してください」


「いえ、頭を上げてください。

無理を言ったのはこちらなのですし、街まで運んでくださるだけでとても有難いです」


「それでは、亡骸の場所まで案内してください」


「はい、こちらです」


私は、亡骸の場所までトウマ様を案内する。


「皆さんそこをどいてください。

トウマ様が専用魔道具のマジックバックで街まで運んでくださります」

 

マジックバックを持っていると言うと私みたいに譲って欲しいという人も出てくると思い専用魔道具であることを予め伝える。


トウマ様は亡骸をマジックバックの中に入れたあと護衛の人と何か話していたが盗み聞きはいけないと思いその場を離れた。


メイドにそろそろ出発した方がいいのではないかと助言をもらい、結構な時間が経っていたことに気がついた。


「それでは出発しましょうか。

早くしないと日が暮れてしまいます」


私の言葉に護衛人達がそれぞれ動き出し、準備が整い次第街に向けて出発した。

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