第5話【マジックバック】

「なに!?

もう全滅したのか!?

クソ!

引け!

俺達だけでも逃げるんだ!」


盗賊五人は全速力で逃げていった。


「護衛の皆さんあとは任せます」


「はい、あなたはアルティア様の所に戻ってゆっくり休んでください」


そう言って護衛の人の半分が追って行った。


俺は刀をしまい、ゆっくりとアルティア様の所に戻る。


「トウマ様、お怪我はありませんか?」


「いえ、大丈夫ですよ。

援軍が早く来てくれて助かりました。

いやー、援軍が遅ければ死んでたかも知れませんね」


俺は冗談めかして言う。


「それより被害はどうなってますか?」


「残念ですが死者が一人出てしまいました。

他の人達も多少の怪我をしてますがどれも大事にはいたりません」


「そうですか、一人亡くなってしまいましたか」


「気に病まないできださい。

トウマ様が盗賊の接近にいち早く気づいてくれたからこの程度の被害で済んだのです。

トウマ様がいなければ最低でも半数は死者が出ていたでしょう」


「はい、ありがとうございます。

それで、亡骸はどうされますか?」


「持ち帰りたいのは山々ですが怪我人もいますので遺留品だけ持ち帰ることになると思います」


アルティア様はとても悲しそうに言う。


アルティア様は貴族には珍しく、ちゃんと皆のことを考えられる人で良かった。

亡くなった人も、その辺のクソ貴族を護って死ぬよりは幾分かは救われるだろう。


「提案ですが、私はマジックバックを持っているのでそこに入れて街まで運びましょうか?」


「え!?

本当ですか!?」


「ええ、大丈夫ですよ」


道案内をしてもらうんだ、そのぐらいはしてもバチは当たらないだろう。


「あの、無理を言っていることはわかっているのですが、そのマジックバックを買い取らせてもらえないでしょうか?

せめて貸してもらえないでしょうか?

必ずお返ししますのでお願いします」


いやいや、公爵令嬢が軽々しく平民に頭を下げてはいかんだろ。

でも、平民に対してもしっかりとお願いが出来ると言うのはとてもプラスなことだと思う。

え?

さっきからその程度で評価上がるってどれだけお前の中で貴族の評価低いんだって?

人間って生き物は金と権力を持つと自分勝手になって下のものを見下す生き物だからさ。

それに本にも貴族は基本傲慢って書いてあったからな。

それに比べてアルティア様は良い人や!

もう惚れそう!


「貸して差し上げたいのは山々なのですがこのマジックバックは私専用でして他の人は使えないんですよ」


「そうですか。

専用魔道具でしたら仕方ありませんね」


「街まではちゃんと届けますんでそれで勘弁してください」


俺は申し訳なくなり頭を下げる。


「いえ、頭を上げてください。

無理を言ったのはこちらなのですし、街まで運んでくださるだけでとても有難いです」


「それでは、亡骸の場所まで案内してください」


「はい、こちらです」


アルティア様が護衛の人達が固まっている場所に連れて行ってくれる。


「皆さんそこをどいてください。

トウマ様が専用魔道具のマジックバックで街まで運んでくださります」


アルティア様がわざわざ専用魔道具と言ったのはさっきのアルティア様みたいに売ってくれなどと言う輩が出ないようにするためだろう。

ここで俺の機嫌を損ねて手伝わないと言われないようにする対策なのだろうと思う。

とても頭のいい人だ。


「おお!

それはありがとうございます!」


「「「ありがとうございます!」」」


固まっていた護衛の人達が俺に頭を下げる。


「いえいえ、道案内をしてもらっているのですからこのぐらいはやらせてください」


そう言ってマジックバックに死体を入れる。


「あと、トウマ様」


「はい?」


護衛の人が俺に話しかけてくる。


「盗賊の件ありがとうございます。

そして、最初に忠告をしてくださった時、ただの虚言だろうと蔑ろにして申し訳ありませんでした」


「いえ、大丈夫ですよ。

初対面の人にあんなこと言われても信用出来なくて当たり前何ですから」


「そう言って貰えると助かります。

あと、これは忠告なのですが、アルティア様を貴族の基準と考えないでくださいね。

アルティア様のように心の綺麗な方も確かにいますが、心の汚い貴族も数多くいます。

十分に注意してください」


「はい。

肝に銘じます。

忠告感謝します」


「それでは出発しましょうか。

早くしないと日が暮れてしまいます」


アルティア様の言葉に護衛人達がそれぞれ動き出し、準備が整い次第街に向けて出発した。

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