終
俺が直面した特別な話はこれで全てだ。
今は何をしてるかって? 義手の製作とリハビリが終わって、残った金でベケッツに移住して農業を始めたよ。アニーとクラックはもう少し賞金稼ぎを続けると言って、また旅に出た。いつか三人と、その家族で何かするかもしれないけど、それは多分ずっと先の話だ。
……聞かれなくとも答えられるよ。道が分かたれたのも、持っていた物を失ったのも悔しくないと言い切れる筈も無ければ、まだ歩ける二人が羨ましいとも思う。
それでも、あの時あの瞬間にああいう決断をした事は絶対に正しかったと言い切れる。これは、どれだけ時を経ようと変わらない。
魔剣継承者にほんの少しだけでも認められたことより、誇りを守る為の決断を下せたことを俺は大切に思う。とっくに世界から興味を失われて、俺達の中に於いても過去に埋没する事だとしても、ね。
先に待つ未来で、俺は死ぬまで凡庸で誰からも称えられない人生を進み続ける。
これは覆らない。でも、この事実と同時に足掻き続ければ、満点は取れずとも世界を変えた事実も、俺は抱えて生きていく。
そういう意味では、俺は途轍もなく幸せ者だ。
俺の名前はディンク・ダックワース。学なし実力なし魔力なし、凄い前世もなければ、世界の未来に繋がる何かもない。けれども、大事な物を守り抜いてみせた過去はある。
馬鹿話にお付き合い頂き、感謝するよ。
無名達の瞬き 白山基史 @shiroHBAstd
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