造られた子供たち

威剣朔也



『ヒトはヒトを作ることが許されました』


 幾つものフラスコが在る暗い部屋の中で、唯一黄緑色の光を放つフラスコからこぽこぽと気泡が出る。するとそのフラスコの周りに集まっていた幾人もの研究者たちが、一斉に歓声を上げた。何故なら今この瞬間、ヒトの形をしているがヒトと呼ぶには相応しくない下等な生き物が生まれたからだ。


 その造られたモノの知能は個々にプログラムされており、それ以下もそれ以上も成長する事はなく、体はメラニン色素を持たぬアルビノの様に白い。そして動物のように雌雄の違いがあるわけでもない。それ故に研究者たちはコレをヒトとは呼ばず「ホムンクルス」と呼んだ。




     †




(花には色があり、とても美しいの)

(それは一度でもお目にかかりたいものだ)

(空というモノは頭上に広がり沢山の色を魅せるんだよ。それに鳥という生き物も飛んでいるんだ)

(生き物が空を飛ぶ? そんな重力に反したことがあるワケないだろう!)

(海は大きな水の塊で、中にはサカナという生命が住んでいるのさ)

(その海とやらは大きさにして一体どれだけのものなのだ?)

(それに生き物は水の中で呼吸できない筈だ! 水の中などで生きられるのか?)

(ヒトを愛すという事は罪なのか)

(罪ではないがそれ相応の報いは受けるだろう)

(基よりヒトは我らを理解していないのだから、愛す必要など何処にもないだろう)

(いやいや。そもそも我々が彼らの科学によって造られたのだから理解していなくて当然でしょう)

(だが我らは姿形、それに心を持っている。ヒトとさして変わらぬではないか)

(しかし我らにはヘソとやらがないぞ)

(生まれ方が違うんだから、当り前でしょう)

(我々は女という生きた身体から生まれておらぬのだ。仕方がなかろう)

(我々はガラスで作られたフラスコの中から生まれ、造られた存在なのだ)

(そう、我々はホムンクルスなのだから)

(人の欲望と科学の副産物でしかないのだよ)



(僕らは、ヒトを愛す事が許されるのでしょうか―――)



 回遊する共有意識の中、その問いに答える者はだれ一人として居なかった。


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