ひこう
実に唐突な話なのだけど、私は空を飛ぶことができる。
そう、飛べるのだ。
なんといっても魔女ですから。えっへん。
え、どうやって、だって?
そりゃもちろん箒に跨って、ですよ。
なんといっても魔女ですから。えっへん。
意味もなく、仮想の生徒に向かって威張ってみる。
魔女歴苦節十年ちょい。多分言うほどには貫禄はないと思う。でも少しくらい調子には乗らせてほしい。
でも実際、箒に乗れる、と言うのは、そこそこ誇ってもいいことだと思うのだ。
実のところ、同年代で箒に乗れる魔女はあんまりいない、らしい。
よくよく考えなくても、箒+自分の体重を持ち上げて動かしたり、そもそもあの細い柄の上でバランスを取ったりするのはそんなに簡単ではない。
詰まるところ箒に乗って飛ぶためには、その辺りを誤魔化すためのコツをどれだけ覚えるかなのだけど――私はそれが得意だった。難しいことはわからなくても、体感でどうにかできるものはどうにかなってしまうらしい。
……と師匠に言ったら、これまた頭が痛そうにしていたけど。
とにかく、私は空が飛べるのです。
こう言えば近所の生意気な子供たちもきっと私を魔女だと認めざるを得ないでしょう。
そう思っていたのだけど。
「じゃぁ見せてよ」
という一言で、私はあっけなく撤退を決意した。
空を飛べる、それは間違いない。
けど、同時に、飛べない。
そう、実はそこには、重大な欠陥が存在するのだ。
何かといえば、それは、
「私有地内に限る」
なのだ。
そう、齢十数の私。
なんと箒免許を持っていないのです。
箒免許、って何?
と言う方のために説明をしておくと、あるのです、自動車免許と同じで、箒にも免許が。
始まりは、えっと、だいぶ昔。
とある魔女が事故未遂を起こしたことに始まる。
原因は長距離の飛行による疲労からの墜落未遂だったとかなんとか。
以来、箒に乗るためは自動車免許と同じ条件がつくようになりました。
18歳以上で、筆記と実技の試験に合格していること。
しかも箒というものは空を飛ぶわけなので、筆記試験には航空法なんかの勉強もちょっぴり含まれていたりして、なかなかに難しいのです。
高空を飛ぶときは、後ろに赤いランプを点けなければいけない、とか。それはも流石に風情がないんじゃないかと思うのですが。
ともあれそんなわけで、齢十と少しの私は残念ながら箒の免許を持っていないのです。
なので、外で箒に乗れないのでした。めでたくなしめでたくなし。
……ほんと、免許取るのは大変で、しかもそこまでやっても結局長距離の移動はとっても疲れる、って、箒に乗る利点がまるでないじゃないですか、なんて私は思うのです。それだったら同じ労力をかけて自動車の免許を取った方がマシなんじゃないかって。
まぁ実際には、魔女っぽいから、って理由で箒免許にチャレンジする人は結構多いみたいなのだけど。
やれやれ、って感じです。
そんなわけで、近所の子供達に箒に乗れと煽られても、私はただ拳を握りしめてこらえるしかないのでした。
……まぁ、箒に乗れない理由はもう一つあって。
昔、修行時代にうっかり外で箒に乗って、それで取り締まりの魔女さんにそれはもうこっぴどく怒られたのが今でもトラウマ……なんて。
そんなこと、誰にも言えないのだけど。
魔女の日記帳 九十九 那月 @997
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