まほう

 実に唐突な話だけど、魔女と言うのはなかなか大変なのだ。


 まず第一に、守るべきルールが幾つもある。

 自然を大事にしなければいけない、嘘をついてはいけない、後片付けはきちんとしましょう、空を飛ぶときは必ず箒を使いましょう……などなど、挙げればキリがない。

 これがなかなか大変だ。木々の水やりだとか、動物の埋葬だとか、日々そういうことをコツコツとやらなければいけない。

 嘘というのは人間社会では時に必要なツールなので、これが使えないだけでも結構困る。おかげですっかり誤魔化し笑いが上手くなってしまった。

 つくづく不便だ。別に破っても罰則はないのだけど、でも根が真面目な私はついつい律儀にこれらのルールを守ってしまう。

 いや、もしかすると真面目なんじゃなくて、昔師匠に脅かされたせいかもしれない。「そんな悪いことばっかりしていると魔法が使えなくなるよ!」って。

 ……あぁ、思い出すだけでもちょっと、その。私の師匠はとかく魔女の掟には厳しかったのだ。


 第二に、魔法って意外と疲れる。

 魔力というものは体力と同じで、根本的には体の中から湧き出すものなので、使っていると当然、疲れるのだ。

 私の場合は特に、魔力がそんなに多い方じゃない。だからちょっと派手に魔法を使うと、すぐ疲れて眠くなってしまう。

 そのくせ、使わないと上達しないし、魔力の量も上がらないので、仕方なく毎日それなりに魔法を使って、それなりに疲れて眠る。

 一体何が悲しくてこんな筋トレみたいなことをしなければならないのだろう。


 第三に……実は、魔法ってそれほど使い道がない。

 これが結構切実な問題だったりする。

 魔法、と一口に言っても色々。火を起こしたり、物を持ち上げたり、ちょっと自然を操ったり……まぁ結構自由にできる


 の、だけど、さっき言った通り、魔法って疲れる。だから大抵のことは労力に見合わない。

 これがはるか大昔だったら、それでも使う意味はあったのだろうけど、現代には電子レンジがある、電気ポットがある。お風呂だってボタンを押せばそれだけでいれられる。

 そんなわけでとかく魔法は使い道がない。魔女が少なくなってきている理由もここにある。だって魔法を使わない方が楽なことも多いもの。


 それでもせっかく覚えた風化させるのは勿体ないと思って、私は毎日少しずつ魔法を使う。お皿を動かしたり、なくした物を探したり。……我ながら、ほんとなんというか、ショボい。


 とまぁ、こんな理由で、魔女と言うのはとにかく苦労が多いのだ。

 我ながら、よく魔女を続けてるなぁ、なんて思ったりすることもよくある。


 けどまぁ、不思議と辞める気にはならない。

 なんかもうどうでもいいや、って思うことはよくあるのだけど、その度私は指先で小さく魔法を使ってしまう。

 なんでだろうなぁ、って思うと、そのときに私は大抵、師匠の言葉を思い出す。


「魔法ってのは、日常を少し楽しむためにあるんだよ」と。


 そう考えると、うん、やっぱりもうちょっと魔法に親しんでいよう、なんて気になる。

 つまるところ、私はこの不便な魔法と言うやつが、結構好きなのだ。


 そんなわけで。


「もうちょっと派手な魔法使えないのかよ」

「しょっぼ」


 なんてことを言われながらも。

 魔女をやめないために、私は今日も、近所の子供たちとレベルの低いやり取りを続けている。

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