第22話 特別官本、そして確定へ

 拘置所でも官本が存在するのだが、留置場とは少しシステムが異なる。


 官本は、普通のものと【特別官本】と言うものが存在する。

 普通の官本は週の月曜日にローテーションで5冊が部屋に入れられる。次の月曜日にまた他の部屋と入れ替えという具合だ。


 【特別官本】はそれこそ特別で、オヤジから願箋をもらい、リストから選んで次のように記入する。


 【勉学のため(もしくは教養を深める為等)、○○○の貸与をお願いします。】


 そして自分の称呼番号と名前を記入し、しかるべき科へ提出する事で後日貸与された日から1ヶ月間借りることが可能となるのだ。


 このシステムで祐介は将棋系の本を借り、着実に刑務所で無双する為の準備を整えるのっだ。





 時間が刻一刻と過ぎ、祐介が確定に行く準備をしている期間、松田も判決が出て控訴していた。が、松田は控訴を取り下げた。


 松田は娘を性的暴行したという罪で母親から訴えられずっと否認していたが、こういう案件ではまず無罪逆転になる事は難しく時間も金もかかる。

 松田はもうめんどくさくなったと言い、


 「さっさと終わらせる方が楽やろ」


 と言って確定に上がって行った。



 ほどなくして祐介も準備があらかた終わり、控訴を取り下げた。


 皆から【追い出し将棋】と言うことでみな意気込んで祐介を叩き潰すと言っていたが、それら全て祐介は返り討ちにした。


 そして3月15日、祐介はついに確定へと上り、受刑生活の第1歩に足を踏み入れた。



 部屋を出された祐介は荷物を持ち、拘置所に来た時検査を受けた部屋に再び案内される。

 下着や靴下以外の衣類は全て留置され、黄緑色のシャツ(上着)である【居室着】の夏用冬用と、そのシャツの下に着るこれまた黄緑の【中着】、またまた黄緑の半スボンと長ズボン、グレーに黒のボーダーのパジャマ上下、長袖のインナー(ヒートテック等)を持っていない者は厚手の長袖(メリヤスと言う所もある)2枚にパッチ(メリヤス下と言うところも)2枚が支給される。

 下着や靴下を持っていない者は【官物】を支給してもらえる。

 まぁここで持っていない者は拘置所に来た時に既に借りている者もいるから改めて借りるという事はまずない。


 【官物を借りているものはイジメられる】という噂もあったが、祐介はなんとか揃えることが出来た為、その辺はホッとしていた。


 確定すると【満期日】が告げられる。満期日とは、文字通り【刑期が終了する日】である。


 熊谷の満期日は9月10日と告げられた。これで未来が全く見えなかったものが、どんなに遅くとも3年後のこの日には出所できるという明確な希望が持てるのだった。

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檻の家 みや @kula-Miya

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