では一体、誰が為に鐘は鳴る

近未来、軍事、科学技術、政治、そして神話。
この単語の羅列に心を躍らせるのであれば本作は新たなる価値を与えてくれるだろう。

美しい世界観、淡い文体でありながら心の深くに沈み込んでゆくような経験。
『心理描写重視』とあるが、私は作品から語らずの美学を見出した。
小さな存在達の混じり合う想いや選択をどこか超然と、しかし壮大で重厚に描き出す本作は読み終えた時、言葉にならない心地よさで満たしてくれるはずだ。

レビューとしての作品紹介は「作者が概要に書いたあらすじを読めばいい」に尽きる。
「面白そうだ」と思えば作品を読めばいい。何故なら、そこにすべてがあるからだ。
読者の私に出来る事は、このレビューを目にした君がその一歩を踏み出してくれるのを願う事だけ。

率直に言えば本作のテーマや文体は人を選ぶかもしれない。
だが、手に取る者にはきっと素晴らしい煌めきを見せてくれるに違いない。