９２個のサイコロ

解答

　おや、皆さんお戻りで。もうよろしいでしょうか？それでは続きをお話いたしましょう。

　我が友人は、ノートパソコンを壊したのは山田さん自身だと結論付けました。犯人が壊したにしてはキーボード側の損傷は小さすぎますからね。おそらく、キーの紛失を悟られないように、派手にディスプレイ側だけを傷つけたのでしょう。さらに念には念を入れ、取り外すキーは、犯人の名前のような直接的な物にはしませんでした。

　キーは文字通り、鍵に過ぎなかったのです。

　続いて、我が友人はキーを次のように並べました。[SHIFT]、[J]、[I]、[S]。これが何を意味するか、その道の方でなければピンと来ないでしょう。Shift JISと言いまして、コンピュータ上で日本語を表現するための文字コードなのです。

　簡単に説明しますと、１０種類の数字とAからFまでの文字、計１６種類を組み合わせた４桁で、１種類の文字を表しているということです。例を挙げると『山』なら『8E52』、『田』なら『9363』です。パソコンの日本語入力ソフトがあれば確認できますよ。

　犯人に悟られないような複雑なダイイングメッセージを考える上で、パソコンから着想を得たのですね。

　さて、最後にShift JISで変換する4桁の文字列です。ここで山田さんが必死に蓄えたサイコロが登場するわけですね。

　その答えはダイスコードと言って、ボードゲームなどで使用するダイスの数と種類を指定する表記方法です。山田さんの職業を踏まえていれば、分かった方もいるかもしれませんね。

　例えば、６面サイコロを３つ使用する場合は『3D6』と記載します。我が友人が提示したように、山田さんが飲み込んだのは全て同じ６面サイコロですから、その表記方法は『92D6』。ほら、4桁になっていますよ。

　最後に、これを変換して謎解きは終了です。山田さんが示していたのは椿だったわけですね。

　それにしても、恐るべきは山田さんの執念。我が子を告発するために、ここまでするとは実に恐ろしいことです。親子の関係という物はぜひとも良好に保っておきたいものですね。