第五階層 首ボウリング
城11 レッド・ウィングの首
静寂に包まれていた第三階層や第四階層。それらとは打って変わって何やら第五階層からは騒音みたいな音が聞こえてきた。エンターテイメントでも行われているような雰囲気だった。
第五階層。その内装はボウリング場やゲームセンターのような遊戯施設に近かった。
もう慣れたのか、アトゥもペイル・ムーンも驚くようなことはなかった。が、驚くべきことはほかにあった。
「よっしゃあ! ターキーだ!」
首のない男が叫んでいる。肝心の首がどこにあるのかというと――ボウリングの球として出てきた。喋っていたのはその球……いや、頭だ。
「何やってるんですか!? 首を取ってボウリングしてるう!?」
この様子にペイル・ムーンがはしゃがなはずがなかった。ペイル・ムーンはすぐさま彼にかけよった。
「その首って着脱可能なんですか!?」
「え? ああ、よく分かったなあ。ほら、こうすればいつものレッド・ウィングだ!」
レッド・ウィングと名乗った男――おそらく吸血鬼は笑いながら首珠をもとの場所に置いた。
「待て、ツッコミどころばかりだろ!」
レッド・ウィングとペイル・ムーンの後ろでアトゥは言った。そもそも、吸血鬼であっても自分自身の生首でボウリングなどいろいろとおかしいのだ。そしてペイル・ムーンはその様子に興奮して勝手に話しかけている。
「どこがですか? 吸血鬼って首が取れても死なないので」
と、ペイル・ムーンは言った。
「そこじゃねえよ。なんで生首でボウリングなんだよ! 転がりにくいし痛くねえの!?」
「転がりにくさは自分で回転してどうにかしているから心配ないな! 投げてみる?」
「しねえよ!」
首が取れて生きている吸血鬼がいて、今度は自分自身の首を投げる吸血鬼。アトゥもさすがに感覚がマヒしてきたがここだけはツッコミたかった。
「いや、階が進むにつれてインパクト強くなってるな?」
「インパクトなあ。俺もそう思う」
と、レッド・ウィングは言った。どうやら自覚はあるらしい。
「まあインパクトは置いといてだ。階段はどこにあるんだ?」
「階段……ゲーセンの方だなあ。俺よりナインの方がよく知ってると思うぞ。ついて来いよ!」
アトゥとペイル・ムーンはレッド・ウィングに案内されてゲームセンターの方に向かうことになった。
途中、頭蓋骨をボウリングの球として展示していたところもあったが、アトゥはそれを見なかったことにした。ペイル・ムーンは釘付けになったが。
そして、ボウリング場よりもうるさい場所。様々な筐体が置かれた場所、ゲームセンター。さっそく音ゲーをプレイしている少年がアトゥの視界に入った。
「あの子がナインか?」
「そうそう。あ、子って言ってもナインは俺達の中でも最年長だぞ」
レッド・ウィングは言った。さすが吸血鬼。外見が年齢に比例しない。
レッド・ウィングはナインに近寄り話しかけた。ナインは少し嫌そうな顔をしたが納得したようでこちらに向かってくる。
「おや、来客ですね。僕はナイン。第五階層の吸血鬼です」
外見に似合わず紳士的で物腰は柔らかい。
「ペイル・ムーンです」
「アトゥだ。一応、俺達は探索者をしている」
ペイル・ムーンとアトゥは順に名乗る。するとナインは目を丸くした。
「探索者でしたか。かつてのトキサメと同じですね。彼も探索者をやっていたんですよ、昔は」
と、ナインは言う。
「それは初耳だな。え? 昔にも探索者が来たのかよ」
「勿論。そのほかに亜忘くんも探索者ですよ。DASSYさんと最下層に行ったきり戻ってきませんが」
亜忘。アトゥはその名前に聞き覚えがあった。
アトゥが思い出したのは探索者の組織で聞いたその名前。今ではもう死んだことになっているのだが――
亜忘――
廃城の吸血鬼たち 游=レイトショー @Thaumiel
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