最後のポイントは何日分か?
日常の中で、彼女への愛が心の中で生まれたと感じていたとき、かぐやが消えた。
おかしい。いくら呼んでも返事がない。俺は焦った。
『彼女が消えた』
SNSでねがいの館に連絡してみた。すると――
『残念ですが、そろそろポイントがなくなってきたので、彼女は返却してもらいました』
という返事が来た。
『いくらでもポイントをつかってかまわない。彼女を返してほしい』
『残念ですがほとんどポイントが残ってません。あなたの命に関わりますから』
俺、今までどれくらい使ったんだっけ? あまり考えずにポイントを使ってしまった。
でも、200ポイントと100ポイントを3回。合計500ポイントだったはずだ。まだ500ポイントは残っている。
『ポイントが増えることってないのか? 俺の今の所持ポイントはいくらだ?』
俺は、焦って質問した。
『残念ながら、ポイントが増えることはありません。元々死ぬための願いなのですから、残りは50ポイントです』
『500ポイント残っているはずだ』
『あなたは、彼女と時々一緒に眠っていましたよね。2回目以降、1回で50ポイントなんですよ。初回以降、5回眠れば250ポイント使用したことになっています何もしなくても毎日10ポイント減ることになっていますから』
『きいていないぞ! 説明不足だ! 詐欺じゃないか』
俺は、怒りに身を任せて、文字を打った。
――すると、メッセージが返信された。
『あなたは質問も確認もせず、彼女を我が物にしていましたよね。確認くらいはするべきだったと思います。もし、50ポイントで彼女をお返ししたらポイントはゼロになります』
『説明くらいするべきだ。ポイントがゼロになったら死ぬというのか?』
俺は、怒りと焦りで手が震えた。
『確実に死にます。あなたは、死にたかったのではないですか?』
あまりにも事務的な返信だった。どうせ嘘だろうと思っていた。
だって、こんなに元気なのに死ぬわけがない。俺は若いんだ。
『彼女と会いたい。50ポイント使うよ』
やけくそだった。
『あなたは死にたいのですか? 生きたいのですか?』
念を押すようなメッセージだった。
俺は少し怖く感じた。これが、普通ではないということを肌で感じていたからだ。
もしかしたら、本当に死ぬのかもしれないという恐怖が襲った。
『生きたいし、会いたいんだ』
『それならば、ポイントを使わず生きてください。あなたは死にたかった。生きていればいいことがあるかもしれないのに。生きていなければいいことは起こらないのに』
『ポイントを使ったら、すぐに死ぬのか?』
『即死です』
背筋が凍る。仕方ない、生きていれば彼女に会えるかもしれない。
『じゃあ、ポイントは使わない』
これでねがいの館ともお別れだ。そう思った。
『残りわずかの命を大事に生きてください。後悔先に立たずです』
妙なメッセージだった。どういう意味だ?
『あなたの残りのポイントは、日にちに換算すると、5日の命ですから』
***
――このメッセージの後、彼の人生に6日目はなかった。
ポイントを少ないと感じるのか、多いと感じるのか、命のポイントの重さは本人の考え方次第だと思います。時すでに遅し。
もしもあなたが、ねがいの館に出会うことがあったら、きちんと命の重さを考えて、ねがいをかなえてください。
ほんのささいなことで、はまって抜け出せなくなる依存心、あの世への道――。
人間は、実に厄介で面白いですね。
どんなに金持ちでも、有名人でも、天才だとしても、必ず死が訪れることは、神が人間に与えた平等な権利と義務なのかもしれません。
生きたいから長生きできるものでも、自分で寿命を決められるわけでもないのです。自分の寿命の長さは誰も知らないのが普通なのです。
明日、死ぬ可能性もみんなあるわけで、命の長さは選べません。ですから1日1日を大切にして生きてほしいのです。
それでもねがいの館を利用したくなったときは、私からあなたへご連絡をさしあげます。
ポイントがゼロになったら死にます【5分で読書収録作品】【書籍化】 響ぴあの @hibikipiano
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