第15話 冒険者大会
さて、出場者控え室的なところに来た。
そこには準決勝で勝ち上がってきた魔導士がいた。
「よろしくね!」
「よろしく」
魔導士は、女性で、これといったスタイルの出っ張りはないが、顔立ちはよく、少女と、女性の間のような感じだ。それに、態度も良い。
強くて可愛くて、Aランク。そして若い。男どもがほっとかないわけがない。
そのため、準決勝の盛り上がりはすごかった。
ちなみに、この人が初手でヘルフレアを撃った張本人だ。
「決勝よろしくね、私メリーよ」
「あ、よろしくお願いします、俺、ジンです」
魔導士はメリーさんと言うらしい。
メリーさんは魔導士なのに、決勝まできた。準決勝の相手は魔剣士。
魔法と剣を使いこなせる万能職の相手だった。
しかしメリーさんは勝った。理由は初手でヘルフレアで牽制し、自身を強化する強化魔法で自身を強化し、そこから服にも、付属魔法を重ね掛け、そして、魔剣士の身体能力を追い越していた。そのスピード、詠唱力で圧倒し、魔力もそこそこある魔剣士をボールのように遊んでいた。
そのあと、魔剣士は降参、そして決勝に進出してきたってわけだ。
そして決勝。メリーさんは、ギルドからの支給品の魔力回復ポーションをもらい、全回復したそうだ。なのでもうすぐ始まる予定だ。
「最後に一ついいかしら?………うっかり殺すかも」
「…」
何も返せなかった。
メリーさんの目はマジもんだった。本気で殺す気で試合をするつもりだろう。
そして会場に行く扉が開いたのでメリーさんを先頭に歩いて行った。
メリーさんがスタートをする場所についた。ジンは奥側スタートだったので、当然のように、メリーさんの横を通ろうとした。
「負けてもしょうがないわ。……だって、君はゴミなんだから」
すれ違う時にそんなことを言ってきた。
脳の中で、その言葉が交差する。
「ゴミなんだから」といった親の顔。
あの時睨んできた親の顔。
様々な情報が交差する
ゴミなんだから
気がついた頃には、スタートする場所にいた。メリーさんから10歩離れたところ。
感情が少し濁り始める。
モクモクと太陽を隠す雨雲のように。
「決勝戦スタートぉ!!!!!」
ジンが考え事をしていたうちに、試合開始の合図が鳴った。
普通は身を構えて、試合に備えて構えるはずだが、今はそんなことはしていない。
普通に棒立ちをして、心ここに在らずな状態だ。
さっきまで優しく見えたメリーさんはもはやなく、殺人鬼のように口元を釣り上げている。
「くらえ!【ヘルフレア】!」
初手でやはりヘルフレアを撃ってきた。
身構えもなしに直撃した。
膨大な熱量と、運動エネルギー。それによって、魔力が少し減った。
大きく上空に打ち上げられて、下にはクレーターができている。
「俺、何やってんだろ……」
上空から落ちながら考えた。笑顔で抜け出た故郷。
笑顔で挨拶をした時の父の顔。母の顔。
ゆったりと何だかんだ冒険者やってるけど、目的は何だ?
自問自答をしている間に、追い討ちをしてきた。今度は【ファイアアロー】精密度と、単体攻撃に優れている魔法。
ああ、意識が飛んでいく。親を憎んで、自分を憎んだ。なぜこんなに身分差で、上下関係ができるのだろう。
ああ、だめだ。意識が……飛んで……い……
♢
「はぁ、はぁ、もう降参してもいいのよ?はぁ、」
その言葉によって、意識を取り戻した。
どのくらい時間が経ったのだろう。……いや、そんなに経っていない。
「真面目にやりなさいよ!」
「……わかった」
特に考えもしなかったので、勝手に喋っていた。
多分、【ファイアアロー】の後、数個被弾して、落ちてきたのだろう。
服は保護されないので、切れてるし、焦げている。上裸に近い姿で、立っている。
「目的はあの2人に教育をすること。そして、俺みたいな奴を助けること」
本で読んだけど、これ、臭いセリフとか言うのだろう。だが、自分がされた虐待で、わかった。辛いんだと。臭くてもいい。
だって、それで救える命だってあるのだから。
「【魔力斬】!!!!!」
ベルト型にしていたトレントを変形させ、2割の魔力で放った。
結果。
死者0名
重傷者0名
軽傷者0名
気絶者2491名
ローチェが魔力を吸い込んでくれたとさ。
最弱であり最強な草な魔法 運蓮 @unren
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