第5話 「帰るぞ」
ビルから出た男を組織の一員に引き渡し、二人の仕事は終わる。
「お疲れ様ですぅ。先輩方ぁ」
その二人の元に一人の少女が、子犬のようにふわふわのその長い茶髪を揺らして近づいてくる。
少女はこの地域にある私立の制服を着ており、学校帰りなのかその手には今流行りのタピオカミルクティーを持っている。少女の声には覇気がなく間延びしており、その声と態度からは二人を労おうという意思を全く感じない。
「ダウト先輩が相手を説得し、シンリ先輩が拘束する。いつ見ても素晴らしいコンビネーションですぅ」
「でしょー?俺とシンリってばベストコンビだからね」
アンノとダウトは息が合うようで、出会い頭に早速談笑する。
『今すぐ解散したいがな』
「もう、シンリってばツンデレなんだからー」
少女に褒められ、ダウトは嬉しそうに照れながらシンリに抱きつこうとする。しかし、シンリはそのダウトを軽く躱し、ホワイトボードを突きつける。
「本当に尊敬しますぅ。私も先輩方みたいに活躍したいですよぉ」
少女は本気でそう思っているのかいないのか、ちゅーっとタピオカを吸い上げて飲みながらそういう。
「それにしても、アンノちゃんってばもうちょっと優しくあのビルに案内してくれないかなー。今回もかなり怒ってたよ」
彼女、アンノこそが認識をずらす能力を持つ能力者。やる気こそ微塵も感じられないがその力は組織のために役立っている。ダウトは苦笑いを浮かべながらそう言う。
「そんなの難しいですよぉ。私ってばまだまだ下っ端なのでぇ」
アンノは間延びした抑揚の少ない声でそう言う。
『本気でそういうことを言っているから叱れないな』
「あはっ。やっぱりシンリ先輩には分かるんですねぇ。相手が嘘を言っているかどうか」
「まぁね。シンリにとってそんなことできて当然だよね。嘘を見破る能力だからさ」
ダウトはアンノの言葉に、出来のいい娘を褒められた親のように照れ臭そうに言う。
「なんでダウト先輩が誇らしげなんですかぁ?ダウト先輩だってすごいですよぉ。相手に嘘を信じ込ませる力なんてぇ。この仕事にぴったりじゃないですかぁ」
「だって、シンリのことを一番分かっているのは俺なんだからさぁ。仕事はシンリがいればどんなことでもするよ。シンリだってそうでしょ?」
『お前のことなど分かりたくもないし、できれば別の仕事をしたい』
同意を求めたダウトに、シンリは受け流して冷たく放す。どれだけダウトが距離を詰めてこようとも、シンリはその分距離を放す。何があってもその距離が変わることはないのだろう。
「ひどいなぁ」
それでも、ダウトは放されることに慣れているのか、傷ついたふりをしながら笑う。
『話は済んだな。それじゃあ、私は帰るぞ』
「あ、俺も帰る!アンノちゃん、あとはよろしくね」
先に踵を返して帰ろうとするシンリの後をダウトが追いかけ、二人は帰る。
「はぁい、お疲れ様ですぅ」
嘘を吐く者と、嘘を嫌う者。
これはそんな二人の、嘘の物語。
嘘つきは能力者の始まり みぐゆ @miguyu
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