SCP-027-N 『渡米』

――――ぼんやりとしている記憶だった。昔の夢。過ぎ去った悪夢。小さい頃の俺を見て、今の俺は、どこか他人事で見ていた。

「私も育児で疲れてるのよ、どうして何も考えてくれないの!」

「うるさい!そこをどうにかするのがお前の仕事だろう! 黙って飯を作ることも出来んのか!」

「……やめて、お父さん。もう怒鳴らないで僕のことも見てよ。やめて、お母さん。もう叫ばないで僕のことも見てよ」

俺は、今日学校でとった算数の満点のテストを見せたかっただけのに、2人が喧嘩をしているから怯えてしまう。その態度が父親の気に障るのか、更に父親を怒らせてしまう。

「うるさい! ガキは引っ込んでろ!」

「そうやってすぐ怒鳴る所を私は注意してるのよ! ……ほら持葉、自分の部屋に帰って? テストは後で見てあげるからね?」

「お前がそうやって甘やかすからあいつがどんどんつけ込むんだ!」

「あなたは少し黙っててよ!」

「何だと、誰が稼いでやってると思ってるんだ!」

遠回しに「帰れ」と言われた事を、小さいながら察した俺は、後ろで殴られそうになっている母親も気にしながら、泣きそうになりながら、自分の部屋に帰って、そして、俺は、俺は―――



「…? …餅屋くん。餅屋くん。大丈夫?」

「ッ!? ハア、ハア、ッ、ハア……クソッ、ただの夢か。ああ、ありがとう、烏島」

悪夢を見たせいで飛び起きた俺は、急いで腕時計を見る。隣で寝ていた烏島が、俺の唸り声で目を覚まし、俺を起こしてくれた烏島がこちらを心配そうに見るので、大丈夫だという事を伝えた。

時刻はの7時30分。この前は緋鳥や五月と一緒に行ったプールで不幸にも上司と会って、そこで一悶着あったりしたのだが無事に帰宅し、眠りについた。

そして今日は、夢の中で『襲撃』を受けると言われたアメリカ研修の日だ。財団専用のプライベートジェット(豪気な事だ)で渡米中なのだが、いつの間にか眠っていたらしい。

「チッ、久しぶりに見たな。さすがにもう大丈夫だと思っていたが」

「…? …嫌な夢でも見たの?」

「ああ、嫌な夢だ。昔の、嫌な夢。でももう大丈夫だからな。心配してくれてありがとう」

「…。…心配なんてしてない」

どうやら心配していたと思ったのは俺の勝手な勘違いらしい。機嫌を悪くした烏島はそっぽを向いてしまった。うーん、女性は難しい。

『財団職員の皆様各位にお伝えします。こちらの飛行機はもうすぐ現地に到着致しますのでシートベルトなどを……』

「ああ、ほら、もう降りる時間だ。機嫌悪くしてないで降りるぞ」

「…。…悪くなんかない」

「ええ……」

これ以上つっこんでもややこしくなりそうなのでここら辺で切り上げた。

さて、

飛行機から降りて、俺が空港でうろうろしていると『Training Traveling of Staff』と書かれている旗を見つける。どうやらあそこが今回の研修らしいのだが、研修は1人につき現地の職員が1人つくので、旅行というカバーストーリーはあまり適切ではないと思う。それより、何だかほかの旅行会社が掲げている旗の位置より低くないか? そう疑問に思ったがとにかく俺は職員の人に話しかける。暗号とかも特にないので、普通に話しかける。

『すいません、財団の研修旅行はこちらですか?』

『はい。ええと、名前は確か、モチヤモチハ博士、ですね。私は今回の財団職員研修員、Alastアラスト・B・Sicthrea シクスリー博士です。気軽に、アラストと読んでくれて構いません。クリアランスレベルは2。つまりあなたと同じですね。研修全体を通してあなたの付き添いをしますので、よろしくお願いします』

『はい、よろしくお願いします。所で、もう1人いるんですよね。その人はどうしたんですか?』

『あのゴミ……失礼、エージェントは今回解説するSCPの準備をしているため、現場で待機中です』

不穏な言葉も聞こえたような気がするが、第一印象としては生真面目そうな人だ。腰までかかる白い髪と真っ白な体、黒縁眼鏡は見た目がスッキリしている。ハキハキと敬語で喋り、威圧感もあるのだが、身長は……かなり小さい。俺自体も160㎝近くしかないが、多分140㎝ぐらいしかないんじゃないのだろうか? 電車とか子供料金で入れそうだな。

『さて、英語が堪能なのはいい事だとは思いますが、今私を見て、こいつ小さっ、と思いませんでしたか?』

げっ。

『えっ、思ってませんよ? はい、本当に。身長が小さいなんて、いや思ってませんって』

『……あなた、他人から嘘を吐くのが下手と言われたこともありませんか? もう一つ、私はが小さいとは一言も言ってません』

『あっ』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『それでは、あなたが今日ここで解説を受ける場所となっています。流石にあの人の悪評が日本支部に伝わってるなんてことはないと思いますが、くれぐれもエージェントには気をつけてください』

『は、はい。ていうか、そのエージェントって誰なんですか?』

空港から車で揺られて2時間程経ち、俺は今日の研修先であるサイトに来たわけだが、最初の会話でどうも印象が悪い。なんだか嫌われているような気がするし、お前も身長が小さいのに何言ってんだって思われているのかもしれない。まあ、今さらそんな事言ってもしょうがないのだが。

『えっ、知らされてないんですか? ……ッチ、█████クソアマ、ちゃんと伝えとけってあれほど言っただろうが……あ、失礼。それではお入りください』

なんだか今、相当不穏な単語が聞こえたのだが、多分気のせいだろう。うん、気のせいだろう。

そう思いつつ俺は研修室のドアを開けたのだが、そこには

『失礼しま』

『Hello モチヤ君、久しぶりだねぇ! ちゃんと学校の宿題や』

バタン。

俺は今開けた扉をすぐ閉め、数秒間目を閉じたり揉んだりしていたのだが、脳の処理が追いつかない。状況が理解出来ない。何故、何故あの人がいるのか? 俺はアラスト博士の不審がる顔を尻目に、もう一回ドアを開けた。

『失礼し』

『ちょっと! 何で扉閉めたのさ、もしかして私の事忘れた? ひどいな~、まぁいいや、じゃあ改めて自己紹介。私こそ、財団が誇る Agathaアガサ Castellanosカステヤノス! クリアランスはぁ、3!』

やっぱりだ。そこには俺が潜入捜査している学校の、そして俺の担任である、アガサ先生……いや、Agtエージェント.アガサがいた。混乱から抜け出せない俺に、アラスト博士のキツい一言が刺さる。Agt.アガサの部下なんじゃないのか?

『Agt.アガサ? 私、あれほど伝えてくださいといいましたよね? ……憶えてないとは言わせねえぞ』

『アハハ、人間だれにも間違いはあるからしょうがない』

『███████』

『ああじゃあ今回のSCPはこちらはいドドン『ドリームマン』! SCP-990!』

『聞け!』

『ぐふっ』

『ドリームマン!?』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お久しぶりぶりざえもんすいません。どうも餅屋五平です。

年明けちゃいましたね(今日2月8日)。最近忙しいのでまた投稿できなくなるかもしれませんけど気長に待っててください。

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SCP財団職員の学校生活 中嶌 浩和 @mochiyagohei

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