0ー27【夢後】



 あの激闘から早二ヶ月ちょい、冬休みが終わり三学期後半に差し掛かる。


 小野寺早希は個人、団体共に全国に出場。団体は途中で負けちまったが個人では見事に悲願の優勝を勝ち取りやがった。

 全く、大した奴だぜ。二年の全国を最後にクラブは引退するみたいだ。全国優勝だけに、大学からのオファーなんかも来ているみたいだが早希には他にもやりたい事があるらしい。



 早希とは、お互いに忙しくて殆ど会えずに時は過ぎ、高校三年目、四度目の春が訪れた。


 乙音の奴は相変わらず俺ん家に入り浸っては受験勉強に励んでいた。どうやら大学の金くらいは工面してくれるみたいだな。

 面倒を見る気はねぇが金だけはあるらしい。

 ま、そのおかげで乙音も大学に行ける訳だし、文句は言えねぇな。


 俺は俺で、親父の残したこの店を本格的に継ぐ事にしたぜ。お袋と協力すれば昼のランチも始められるしな。





 そして卒業の時、


「悠一郎さん……何だかさみしいですね。」

「まぁな。世話んなった校舎ともお別れだぜ。で、遂に社会人ってか。ん、そうか、乙音は……」

「はい、おかげ様で大学に進学です。とはいえ、やりたい事が見つからないだけなんですけれど。」


 俺はそう言って笑う乙音の頭をポンと叩き言ってやる。


「んなもん、俺だってそうだぜ。いや、クラスの奴らだって同じだ。本当にやりたい事なんてよ、卒業した時点では分からねぇんじゃねぇか。だ、だからよ、乙音、お前も焦らずに自分の道を行けよな。」

「ゆ、悠一郎さんっ!」


「ばっかやろうっ、そんな目で見つめるんじゃねぇやいっ……ま、待ってっからよ。

 乙音の道が決まるまで、お袋とあの店でな。」


 ちっ、柄にもない事言って、リーゼントに響くぜ。


「はい。わたし、大学でもう少しやりたい事があるんです。その為にこの大学に決めたんですから。諦めたくないんです……わたしの夢を。」


「そーよ、アンタには私の代わりに世界をとってもらわないといけないんだから!」


 この声は、小野寺早希!

 わざわざこっちの学校まで来たのかよ。コイツ、多分自分の学校であまり友達いない系だろうな。


「早希ちゃんっ!」


 いつの間にか仲良くなって。


「乙音、今日はアンタにコレを渡しに来たわ!」

「こ、これは……!?」


 早希の手には輝く立派な金メダルが。早希はそれを乙音の首にかけて笑った。


「全国優勝のメダルよ。これはアンタが預かっておきなさい。そして、アンタが世界をとった時には……世界のメダルを私に寄越しなさい?

 ……なんてね。その子にも世界を見せてやってくれたらいいよ。ふふっ。」

「……確かに……預かりました……重たい、こんなに重たいんですね、全国のメダルは……っ……」

「あ、な、泣くなよ〜もう〜アンタはその重みを知ってる側でしょ?」

「だって……嬉しくて……早希ちゃんの想いが……とても重たくて……早希ちゃん、わたし、頑張って来ます。だから、早希ちゃんもデザイナーの専門学校、その、頑張ってね!」

「うん、世界的デザイナーになってやるわ。ま、そう簡単ではないでしょうけど。ふふっ!」

「あははっ、早希ちゃんなら大丈夫ですっ!」



 最高に良い顔しやがって、二人共よ!


「おらおら、二人共並べ。写真撮ってやるからよ!」

「あ、はいっ!」

「ちょっとリーゼント君、アンタも入んなよ。これ使えばいいんだから。」

「それは自撮り棒!?」



 シャッター音。



 校舎を背に、俺と乙音、早希の三人の記念撮影。


 特に目立った三年じゃなかった。

 リア充、そんなものは知らん。

 だけどよ、俺はコイツらに出会えた。


 あの日、チョコレートを食うために旧校舎に行かなけりゃ、乙音とこんな風に笑えてなかったかも知れねぇ。親父、これが運命ってやつか。


 俺はこれからも突っ張って生きてやる。

 母さんも、乙音も、俺が面倒見てやるぜ。だから安心してそこで待ってやがれ。

 いつか逝ったらよ、そん時は一緒に酒を飲みながら馬鹿みたいにはしゃごうぜ。





 そして、六年の時が経過した。




 俺は店をしまい後片付けに追われていた。俺の気分は最高に良い。


「悠ちゃん、今週末には乙音ちゃん帰って来れそうだね。それにしても大したものね。」

「あぁ、大したヤンキーだぜ。」



 お疲れ様、気をつけて帰って来いよ。


 ここがお前の帰ってくる場所なんだから。




 店の小さなテレビではスポーツニュースの特集が放送されている。


 その夜、彗星の如く現れた少女に世界が注目した。


 後に少女はこう呼ばれる。




 ————卓上のヴァルキュリアと————






 ————game set————

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◀︎卓上のヴァルキュリア▶︎お隣の卓球少女が可愛過ぎて、自称ヤンキーの俺……あえなくキュン死☆ カピバラ @kappivara

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