殺人鬼しかいないホテル

ちびまるフォイ

悪い人なら何をしてもいい

「みなさんに集まってもらったのは他でもありません。

 実は今朝起きた殺人事件の犯人を探そうと思いましてね」


「さ、殺人事件!? 早く警察を呼びましょう!」

「まああせらないでください」


焦る絶海のホテルのオーナーをなだめた。


「みなさんもご存知のようにこのホテルは別名「絶対死なないホテル」。

 厳重なセキュリティと完全無欠の防護システムで、

 どんな人間も安心安全で泊まれるというお墨付きです」


「ああ、うちも商売あがったりだ。早く警察を呼びましょう」


「それなのに起きてしまった殺人。これは間違いなくプロの犯行です」


話を聞いていた仮面の大男が前に出てきた。


「悪いが俺は今回の犯人じゃないぞ」

「なぜそんなことが言える?」


「俺は毎回殺すときには刃物でバッサリと行う。

 わざわざダイイングメッセージを残したり部屋を飾り立てたり……。

 そんなしちめんどくさいことはしない」


「あなたはいったい……?」


「俺は殺人鬼だ。いつも夏休みにやってくる若者を

 怒りと嫉妬に任せてぶっ殺す殺人鬼だ」


「あああ! 早く! 早く警察を!!」


「なるほど。たしかに今回の犯行はあなたらしくない。あなたは犯人ではないでしょう」


今度は初老のおじいさんが前に出た。


「悪いが、私も今回の犯行とは無関係だ。犯人から降ろさせてもらう」


「なんでそんなことを」


「私も実は殺人鬼なんだよ。ただし、今回の殺人のように品のないものはしない」


「まただ! 早く警察を!」


「私の殺人には常に被害者に考える意味と命の価値を問う。そしてフェアだ。

 今回のように一方的に死を与えるような理不尽な殺しはしない」


「……たしかに、今回の被害者はあなたよりも力は強そうですしね」


「そう、私は殺すときも自分の手を汚すことはない。

 死にゆく人のために心を込めた殺人トラップを作り上げなくてはな」


「なるほど、どうか余生の趣味ができていいですな」


消去法的に最後に残ったのは髪の長い女だった。


「となると……」


「私……ですか?」


「この人しかいませんよ! 早く警察に逮捕してもらいましょう!」


「あの、私じゃないですよ……?」


「どうしてそんなことが言えるんですか」


「私、まずは自分を理解してもらうためにブルーレイを見てもらう必要があるんです。

 で、見た人にお電話して、そこから7日後にテレビからお邪魔して殺しにいくんです」


「なぜそんな手間を……」


「いきなりお邪魔すると驚かれますし、

 私としてもお化粧してない顔でいくのはちょっと……」


「デート前の女子か」

「もう誰でもいいから逮捕しましょう!」


「困りましたね。ここにいる全員が殺人鬼ということで、

 逆に誰が今回の殺人の犯人なのかわからなくなりました。

 木を隠すなら森の中、ということでしょうか」


「ちょっと待てよ。まだ一人だけ怪しいやつがいるだろう」


仮面の大男はまっすぐに指を指した。


「……僕ですか?」


「さっきから偉そうに推理しているがお前だって怪しいじゃないか。

 殺人鬼の俺たちは普通の殺しはできない。だったらお前しかないだろう」


「待ってください。僕も殺人鬼なんです。

 ただし狙うのは毎回若い女性に限っているんです。

 殺したあとに必ず体のどこかを食べて身も心もひとつにならなくては」


「それじゃこの事件は……」

「迷宮入りですね」


「いや、警察に調べてもらいましょうよ!」


「……待ってください。そういえば、ここに集まっていない人がいます」

「え?」


「ほら、この宿泊名簿に名前があるでしょう?」


「オーナー。この宿泊客は殺人鬼か?」


「そんなわけないでしょ! 普通の人ですよ!」


「なるほど……だったら、こんな普通な殺しをするに違いない!」

「こいつが犯人だ!」

「さっそく決めましょう!」


全員で宿泊客の部屋に向かう殺人鬼たちをオーナーが引き止めた。


「犯人がわかったのなら、ここから先は警察の仕事でしょう!?

 これから何を決める必要があるんですか?」


殺人鬼たちは顔を見合わせた。




「いや、誰が犯人を殺していいか決めないと……」

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