50話 手に入れた物

『大奥義書』グラン・グリモアールってなんだ?」


 首を傾げているのは名無しである。


「魔法使いなら誰でも知っている、上級悪魔を召還して財宝を手に入れる事ができるっていう魔導書だよ」

「呼び出す悪魔によって願い事も変えられるとか……って話だけど眉唾ものだな」

「うん、そんな都合のいいものは無いんじゃないかなぁ」


 そんなのあったら絶対に学園が持ってるし、そしたら僕にお金なんて請求しないだろうし……。


「私もラスティスにそう言ったんだがね。どうしても叶えたい願いがあると……」

「叶えたい願い?」

「死の病を乗り越えるほどの回復魔法を求めているとあいつは言ったんだ」

「死の病……もしかして、母さんのこと!?」


 父さんの死んだ後、見る間に弱って死んでいった母さん。もしかして父さんは母さんを助けようとしたのだろうか。


「それで父さんが死んじゃったら何も……」

「フィル……」


 レイさんがそっと僕の背に手を置いた。その温かさもあって、僕は堪えていた涙をこぼした。


「大魔道書の事は私もラスティスに聞かれました。なので似た精霊を呼び出す召喚術の話はしました」

「それだ!」


 僕とアルヴィーは精霊を呼び出す召還の魔法陣をベースにして悪魔セエレの帰還陣をようやく完成させた。


『これなら我も通れそうだ』


 セエレは満足そうに魔法陣の中央に立った。


「二度とこないでね」

『まぁそう言うでない。これはほんの礼じゃ』


 セエレは僕に向かって、何かを投げて寄越した。


「なにコレ」

『魅了の悪魔セエレの涙じゃ。催淫剤にもってこいじゃぞ』

「……ありがとう」


 悪魔からものを貰っていいのかよく分からないし、特にいらないなぁとは思ったけど一応貰っておいた。

 そしてその場にいる魔力を持つ全員、僕にアルヴイーにレイさんにヒューさんで魔法陣に魔力を流す。赤い魔法の波動が行き渡り、セエレの姿がぼやけていく。


「悪魔にものを貰いっぱなしなのも嫌だからコレあげる!」

『なんじゃ?』


 僕は持っていた赤の指輪をセエレに投げつけた。


「それ、きっと封印の鍵だから! じゃあね!」

『ははは、さらばじゃ人間共』


 そう言い残してセエレの姿は消えた。


「ふう……これで悪魔退治完了って感じ?」

「そうですね」

「それじゃあ、帰ろうか。ロージアンの街へ」

「ええ」


 僕達はヒューさんが乗ってきた空飛ぶ帆船に乗せてもらってティリキヤの山岳地帯を抜けた。


「それじゃあ、アルヴィー。また遊びにおいで」

「俺の部屋、掃除しといてくださいよ!」

「う……分かった」


 そこでヒューさんとは別れ、僕達は馬車を走らせてロージアンの街に戻った。


「ぼうず! 生きとったか!」

「ごめん、ホーマさん。あっちこっち寄り道したもんだから」


 何でも屋のホーマさんは僕にしがみついて帰宅を喜んでくれた。


「さーてこれからどうしようかな」

「ぼうずは魔法が使えるようになったんじゃろ? それならうちの下働きをしてる場合じゃなかろうて」

「そうなんだけど……」


 ホーマさんの言う事ももっともだ。僕が考え込んでいると、アルヴィーが僕をつついた。


「フィル、ちょっと……」

「……!! それいいね!」


 僕はアルヴィーの提案に大きく頷いた。


「しかし困ったの。また下働きを探さないと」

「それなら名無しがやれば?」

「え? 俺?」


 名無しがびっくりした顔をして僕達を見た。


「またこの街の裏通りで暮らすつもり?」

「しかし……」

「ええじゃろ、あんたは真っ当に働いた方が良さそうじゃ」

「そんな勝手に……まあいいか……」


 名無しはちょっと照れくさそうに頬を掻いた。


「あんた名前は?」

「なんでもいいよ。名無しって呼んでくれ」

「それじゃ話にならん」

「……デュークだ」

「よろしくな、デューク」


 ようやく名無しの名前が分かった所で、ホーマさんとデュークは握手をした。




「あ、フィル。お帰り」

「ただいまアルヴィー」


 今日この日、僕は母さんの所に墓参りに行ってきた。石屋に頼んで墓も立派にしてもらった。そして……。


「ここが良くわからなくて帰りを待ってたんだ」

「ええと……ここは……」


 僕とアルヴィーはホーマさんの店の隣に家を一軒借りて、二人で研究所を作った。時々ホーマさんの手伝いや、街の人からの依頼事を請け負いながら、僕は精霊魔法を、アルヴィーは現代魔法を。そして精霊魔法を応用した新しい魔法の開発が目標だ。



「フィル、アルヴィー! ごはんですよ!」

「ぴいっ!」


 そうしてもちろんレイさんも一緒だ。マギネは気候が暖かくなったらシオンとレタの所に帰しに行こうと思っている。それまではイルムを友達に、うちで預かる予定だ。


「さーて、夕ご飯は何かな」

「レイさん最近料理が上手になったよね」

「何か名無……デュークに色々コツを聞いてるみたい」

「二人とも! 冷めてしまいますよ!」

「はーい」


 僕達は研究途中の書き置きに文鎮を乗せて、部屋を後にした。こうして、学園を追い出されて道にひとりぼっちでたたずんでいたあの時から、僕は自分の居場所を手に入れる事ができたのだった。




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落ちこぼれ魔法使いは召喚した最強ドラゴンに愛される~お姉さんドラゴンと巡る伝説?の旅~ 高井うしお @usiotakai

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