いわゆる”ブラック企業”と関わってしまった、お父さんと娘の物語。
恐怖のブラック企業とのやり取りが、なんと作者様の経験に基づく物らしいのですが、見事なユーモアセンスと、小説だからこそできる”構成による巧みな伝え方”により、サスペンスでありながらコメディ、コメディでありながらミステリー、ミステリーでありながらヒューマンドラマ……と言った具合に贅沢極まりない物語に仕上がっています。
辛い経験をもとに物語を作る際、作者の「怒り、憤り、自己正当化」に作品が振り回されて独善的になってしまう事がありますが、この作品はそういった問題点を見事に打破しております。
親子の会話、SNS、ニュース番組等を巧みに利用した見せ方も見事。
この短さで、ここまで綺麗に物語を作りあげる手腕に感服しました。
年頃の娘と嫁に逃げられた父親。
でも、この二人、芯の部分で仲が良いので、作品全体にほんわかした安心感がただよいます。
まさに恐怖のSNSなのですが、就職が決まった父に降りかかるブラック事情。
イヤだなー…と思ったら実話ベースなのだとか。恐ろしい世の中です。
あるあるといえば、あるあるなんでしょうが、だからこそ失くしたい、悪は悪だと叫びたいっ。
そんな怒りも包み込み、ユーモアと家族愛、そして、ちょっとしたミステリーとカメムシさんの活躍で、どうしてどうして、読後感は爽やかなのです。
短編ですから、すぐに読めます。
辛いことも前向きに明るく楽しめる、そんな気持ちが生まれる作品です。