6月6日

烏川 ハル

予言

   

 昔の人は、こう言ったそうです。

「空から恐怖の大王がやってくる」

 中には、もっと具体的な予言もあったと聞いています。

「6月6日にUFOが落ちてくる」

 しかも、どうやらUFOは一機ではないらしく……。

「墜落した跡地には、二つの大きな池ができる」

 この話を聞いた時、僕は思いました。

 6月は梅雨の季節だから、雨が溜まって池になるのだろう、と。


 そんな6月6日の今、僕の目の前では。

 落ちてきた球体によって、山が二箇所――頂上と中腹で――、大きく抉れていました。

 幸い、今日は晴天なので、池になるようなことはありません。

 呆然と眺める僕の耳に、呼びかける声が聞こえてきました。

「おーい! 大丈夫か!」


 ハッとして振り返ると、二人組のお兄さん――中学生くらい――が、こちらに手を振っています。

「ごめんな! ケガはないか?」

 謝罪と心配の言葉を口にしながら、僕の方に来ようとしているようです。

 慌てて僕は、叫び返しました。

「はい! 大丈夫です!」

 そして、ボールを拾って投げ返します。

 もちろん僕の力では、お兄さんたちのところまで届きません、でもポン、ポンと転がっていきましたので、大丈夫でしょう。


 お兄さんたちに、ここまで来て欲しくはなかったのです。

 小学生とはいえ、もう僕も高学年。だから一人で砂場で遊んでいたのは、ちょっと恥ずかしかったのです。

 お兄さんたちは背を向けて去っていくので、僕は『山』に視線を戻しました。

 どうせ暇つぶしで作った山です。飛んできたボールで破壊されても、たいして惜しくはありません。

 それよりも。

 一つのボールが、砂の山でも少しは弾んで、二度のダメージを与えた……。それを目撃したことで。

 僕は、一つ賢くなりました。

 あの『6月6日の予言』に出てくるUFOも、実は一機だったのではないか、と新解釈が頭に浮かんだのです。


 そんなことを考えていたら。

「あら、ハーちゃん。こんなところで遊んでいたの?」

 今度は、お母さんの声です。

 別に僕を迎えに来た、というわけではありません。もう僕は、一人で家へ帰れる年頃です。

 お母さんは、たまたま買い物の帰りに、公園の近くを通りかかったようです。

「うん。砂場を見ていたら、なんだか懐かしくなって」

 やっぱり高学年の砂遊びが恥ずかしくて、僕は、そんな言葉を口にしました。

「……まあ、いいわ。もう満足したのでしょう? 一緒に帰りましょうね」

 僕が頷くと、お母さんは手を伸ばしてきました。

 この歳になって、お母さんと手を繋いで帰るのは、それはそれで少し恥ずかしいのですが。

 今日は、砂遊びをしていたくらいです。僕は童心にかえって、素直にお母さんの手を取りました。


 帰り道。

 空を見上げると、梅雨の季節とは思えないほど、青々としていました。

 どこまで続く、永遠の青です。

 なんだか青い空に包まれているようで、幸せな気分になりました。

 まるで、お母さんカンガルーのおなかのポケットにいるみたいな、そんな気分です。

 思わず口笛を吹き始めた僕を見て、

「ハーちゃん、今日は、ご機嫌ね!」

 お母さんも、つられて笑顔になっていました。




(「6月6日」完)

   

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6月6日 烏川 ハル @haru_karasugawa

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