一つの答え
「これは…………………」
さっきのお菓子と違ってヤルダンマさんは固まって、食い入るようにショーケースを見ていた。
その先にはさっきと同じように赤、青、黄色、水色、紫…………。色んな色があった。
でも、今回はお菓子じゃない。
「秋野さん。確かにここは凄く良いです!……でも、私を宝石店・・・に(・)連れて(・・・)来て(・・)、一体何がしたかったんですか?」
私達は今、ジュエリーショップに居た。
目的は勿論。
「ヤルダンマさん。宝石を売る仕事をしてみませんか?」
私は真っ直ぐヤルダンマさんを見つめた。彼は困惑したような顔を隠すように
「僕には無理です。こんな高い物。斬れたら大変です。」
手袋に覆われた両手を胸の前で振って無理だと言った。
「でも、ヤルダンマさん。やってみたくは無いですか?宝石に囲まれるお仕事。」
核心を突く。困惑が隠せなくなった。
「正直………。はぃ。やりたいです。でも、私は不器用です。そして腕は斬れます。こんなんじゃ、やれる仕事なんて限られてくるんです。諦めるしか……無いんです。」
悲しそう。でも、
「ヤルダンマさんは不器用じゃありません。それは手袋の所為です。そしてヤルダンマさん。まだ諦めないで下さい。」
「どうして?だって宝石店でどうやって僕が働けるっていうんで
「どうしたい?秋ちゃんや。」
ヤルダンマさんの声を遮って待っていた人が来た。
腰が曲がっているおじいちゃん。でも、スーツが凄く似合っているおじいちゃん。
「源道さん。この人がさっき言った人です。」
さっき読んだ人はテレフォンアポインターさんじゃなかった。
この人。翡翠源道さんだった。
「で、その、シノギ金属を見せておくれ。」
源道さんは手を出す。ヤルダンマさんは困惑していたが、私が目配せすると、さっき斬ったシノギ金属を取り出して見せた。
「ふーん……これが………。そうかぁ………。」
差し出された金属を触ったり、取り出したルーペでじーっとみて何かブツブツ言っていたけど、
「採用。ヤルダンマくん。君、今日からウチに来なさい。」
採用通知が来た。
「え、え、え?あの、秋野さん。これは一体………。」
「シノギ星のヤルダンマ様。今回は地球でのご就職おめでとうございます。宝石のカット。頑張って下さい!」
ヤルダンマさんは宝石の加工職人をする事になった。
疑問だった。
手袋をしても出来る仕事を見つけてよいのだろうかと。思った。
それが現実的なのは知ってた。でも、ヤルダンマさんはそれ以外の事をしたいと思っていた。
なら、私にできる事は一つ。
ヤルダンマさんが手袋をしないで出来る仕事。彼が伸び伸びと彼の力を活かした仕事を探す事だった。
翡翠源道さん。私の知り合いで宝石の加工。販売をしているおじいちゃん。
『硬い金属も綺麗に斬れる腕の持ち主が居る』と言ったらすぐに駆けつけてくれた。
金属を見たのは切れ味を見る為だったんだって。
おじいちゃん曰く。「あれだけ斬れるんだったら研磨なんて要らんよ。斬れば十分綺麗な宝石になる。」
だって。
宝物庫・ルビー・綺麗
この言葉がヒントになった。
諦めなくて本当に良かった。
秋野さまへ
お元気ですか?
私はへとへとです。
翡翠さんと先輩たちに指導されて毎日毎日宝石を綺麗に見せるカットの仕方を勉強しています。正直大変です。
でも、私は今、自分の手が役に立つと実感できて嬉しいです。
私は諦めていました。
手袋をしている分、仕事の幅は狭まると。僕達シノギ星の人間はそうなんだと。
でも、秋野さんは最後まで諦めずに考えてくれた。
だから私は今、ここに居ます。
本当にありがとうございました。
PS:好きな宝石を教えてください。
いつか必ず、立派な職人になった時、初仕事として、秋野さんにそれをプレゼントさせて頂きます。
ヤルダンマより
こんな時。
私がこの仕事をやっていて良かったと思うのはこんな時。
嬉しい。泣きそう……………。
ピーピーピーピー
端末に皆斗君の名前が出る。
「あーきーのー。Aレンジ案件。今暇?暇だよねぇ?やって。」
「皆斗君冷たい。」
「この前、『いつも行ってるお菓子屋さん教えて』って言うから教えたけど、俺の『お土産シクヨロ』って無視したじゃん。へそ曲げちゅー。駄菓子を奉納せよ!さすれば許そう!」
「解った、後でチロレチョコ持ってく。場所を教えて。」
「チロ……まぁいい。もう送ってある。いってら。」
端末の電源を切り、私は向かう。
今度も大変だとは思うけど、私は行く。
笑ってくれる人たちの為に。
人事の秋野さん 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
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