冒険の書-2- ゆうしゃ

1


「おら!魔王!今日こそついに…ってアレ?

今日はお店やってない?」

「あ、勇者さん!

 水定期購入、いつもあざっす!」*

「まだ俺が入れない裏隠しダンジョンの…

 世界樹の水の水精霊さん、こんばんは。

 魔王は今日はいないの?」*

「あー、なんか身内でゴタゴタあって。

 四天王も一緒に出ているみたいっす」*


2


「ゴタゴタ?」

「なんか地方で魔王さんを騙ったサギ?

 があったみたいで、被害が出たとか…」*

「あれを詐称する勇気…。

 勇者の俺ですら無いな…。

 ある意味俺より勇者だわ」*

「で、姐さんがた。

 本気モードで殲滅しに行ったっす。

 今頃、恐ろしい事が行われてるんじゃないっすかね」*

「っすかね、ってキミぃ」


3


(遥か彼方から一筋の光柱

 直後天の雲を吹き飛ばす輝きの衝撃波

 遅れてやってくる5人くらいの

 怒りの言葉にならない何かの轟きの如し叫び)


「 」

「…あ、終わったみたいっすね!」

「…ッスネ…」

「たぶん戻ってくるんじゃないっすかね?

 あ、勇者さん、ここで待ってます?

 お願いあるんすけど?」


4


「え?あ、戻ってくるなら待つけど何?」

「この水の納入伝票っす。

 渡しておいてくれると助かるっす。

 裏の洞窟に挑戦者来たんで、イベント準備しに」*

「え、まじで!?

 あの魔王倒した奴いんの!?」*

「今の魔王さんじゃないっす。

 前代魔王を倒した勇者さんっす。

 最近、子育て終わって久しぶりに勇者するって」*


5


「子持ちの親御さんだったの!?」

「あ、因みに旦那さん、前代魔王さんっす。

 前代は勇者さんに負けて軍門に屈したっす。

 今は魔王やめてパパさんやってるっすよ?」*

「…まじかー。世界って広いなー大きいなー。

 てか、結婚してやめてたんだ…。

 噂じゃ激闘の末、なんとか倒したって…」*

「倒したのは事実っす」


6


「え?倒したのって事実なんでしょ?」

「あ、勇者さん、まだそういうのは疎い系?

 ハチャー!これは失礼しましたっす!

 じゃ、伝票よろしくっす!」*

「え、え、え、どゆこと?」

「あーら、勇者ちゃん!

 めんごめんご~☆

 お店開けるの遅くなっちゃって」*

「お、おぅ、魔王…。

 なんか大変だったようだな…?

 あ、これ、伝票」*


7


「裏の水精霊ちゃん来てたのねー」

「なんか挑戦者が来たとかナントカ」

「ああ、裏迷宮挑戦発動中なのね。

 忙しいわけだわー。

 ふふ、前代もすっかりパパさんね。

 奥さんも子育て終わってひと安心かしら。

 うんうん、良かったわ~」*

「…お、おぅ、そうだな…」

「さ、お店開けなきゃ♪

 勇者ちゃん、座ってネ」*


8


「手伝うか?」

「いいの?助かるわー。

 四天王達、久しぶりに伝説の…。

 えっと、四重奏天魔崩滅陣を発動させてね。

 明日まで存在復活までお休みなのよ~」*

「まじかよ、あれ!?

 伝説のアレだったの!?

 近くで見たかった…!」*

「ふふふ、勇者ちゃんったらお子様ね~。

 でも勇者ちゃんの本気だったらもっと強いでしょ?」


9


「その本気だしてさ…。

 1度も勝てないアンタに言われるのも…。

 あ、椅子と机、並べちゃっていいか?」*

「助かるぅ~!

 昨日創りおきした楽園の林檎入りポテサラ!

 大サービスしちゃう!」*

「未だ見た事の無いSSレアアイテムの楽園の林檎…。

 そんな形で食える日が来るとは」*

「ふふ、アタシおうちで育てているから」


10


「原木持ちかよ!?」

「魔王になるための666の試練。

 その序盤イベント報酬の楽園の林檎のね?

 その種から芽が出て育っちゃったの~!

 天界の楽園以外でも、世界樹の水でならね?

 枯れないでスクスク育つから驚き~!」*

「世界樹の水パネェ。

 流石天地を繋ぐ神話の架け橋だけあってスゲェ。

 というかその水を定期購入で飲む俺って」*


11


「さぁさ、椅子と机、並べてね。

 あと、外に看板お願い出来るかしら~?」*

「しゃーねー。

 ま、そんくらいサービスしとくわ。

 って重ッ!!??」*

「あー、なんかレアアイテム化しちゃって。

 持っていこうとする奴がいるのよねー。

 だから、勇者クラス以上のパワー無いと、

 持ち上がらない重さにしてるのよ~」*

「待っていつも誰が持ってるの」


12


「四天王のパワーちゃん」

「力の魔天かよっ!?

 あれクラスになれる奴いねーだろぉおい!?」

「勇者チャンなら出来る出来る♪

 ガンバ!ふー!」

「カラオケとかお酒呑むとか訳違うんだぞォ!?

 てか、これどんなレアアイテムなんだよっ!?

 って、コレ伝説の金属の塊ィSSRゥ!?」*

「そ、創っちゃった♪」


13


「創るって神話レベルかよ!!??」

「だってー、アタシ武器不要だし。

 鎧ってボディライン隠しちゃうしー。

 デザインもゴツゴツだしー。

 献上されたのに使わないのも勿体無いし…って」*

「世の勇者達聞いたら血噴出して斃れるレベル…。

 っしかし、重いッ!

 これ、あ、やばい、腰、イクぅッ!?」*


#オカ魔王と勇者とポテサラと

オカ魔王:不届きな詐称した集団を強制転生させた為、

     お疲れモード


勇者:伝説を目にしたかった心はボーイのまま


四天王:次回復活顕現まで23時間


ポテサラ:林檎入り美味しいよね


楽園の林檎:まさかポテサラの具になる日が来るとは

      普通の林檎よりは酸味あり


14


「ママー、お買い物行って来たわ~」

「あーら、お帰りなさい、知ーちゃん!」

「もう、私も一人前の四天王です!

 だからそう呼ばないでって」*

「あらあら、メンゴメンゴ!

 だって可愛い娘みたいものだもの~!」

「ひ、拾ってくれた事に感謝してますけど…。

 あ、みかん買ってきましたよ」

「ふふ、アリガト」


15


「他の四天王は?」

「パワーちゃんは今日は、筋肉会らしくてね。

 パワー系勇者と焼肉」

「いいな、焼肉」

「クイックちゃんは遠方に御使いに。

 世界の果て酒屋さんとこ」*

「そこ、確かクイックさん以外、

 一生かかっても帰って来れない所…。

 なぜそこで酒屋が」*

「昔は魔術師だったらしいワ」*


16


「へぇ。変わった魔術師さん…知り合い?」

「夢の中だけど、長い付き合いね~。

 世界の果てに行かなくても夢で注文出来て便利よ。

 あ、タフちゃんは大地の実家に里帰り。

 決める事があって大変そう」*

「ふーん、結局私だけ出勤?」

「そーよ、今夜は頼むわね~?

 さ、仕込みの準備準備♪」


17


「さっきのみかんはデザート用?」

「それもあるけど、お酒用にも使うわ~。

 あ、そだ!

 折角だからポテサラにも入れようかしら~?」*

「あ、いいですね、それ。

 私、林檎も好きだけどみかん入りも好きです」

「あらあら、もう食べる気マンマンね?

 駄目よ~、お客さん用なんだからー」

「えー、食べたい」


18


「もー。

 あなたは立派な本当の一前のレディなのよ?

 ちょっとは食欲を隠しなさいな」*

「頭を使うから甘いモノが欲しいな~。

 って思っただけです。

 じゃぁ私は店内の掃除してますね」*

「ありがとー。

 アタシだと上手く掃除できないから」

「ママは力入りすぎて、

 ゴミどころか周囲まで掃除しちゃうから」


19


「こーら!気にしてるんだから!悪い子!」

「ごめんなさーい!

 あ、おしぼりも準備しておかなきゃ。

 配達届いてる?」

「裏口に積んであるわ~。

 昨日の分と交換しておいて」

「はーい。あと何かする?」

「終わったらお店開けるまで休憩。

 そうね、早く終わったら…。

 今日のポテサラの味見してもらおうかしら?」*


20


「がんばります!」

「ふふ、ほんと知ーちゃんたら。

 みかん入りポテサラ大好きねぇ」*

「だって、生まれて初めて…

 食べて美味しいって、思ったものですもの」

「…そうね。

 飢えて死にかけてたアナタを拾った時。

 慌てて出したポテサラ…。

 まだあの時は上手く作れなくて。

 ポテサラやめようかなって思ってた…」*


21


「ふふ、たしかに。

 あの時のおいもさん硬いし、

 御酢も入ってなくて、

 あんまり美味しくなかったですけどねー」*

「あ、気にしてた事!

 バッサリというんだからー!

 もう、ホントおませさん!」*

「私の力が知に関する能力に目覚め…。

 ポテサラに関する知識を世界から教えてもらい、

 それをママに教えたんだよね」*


22


「もー、まさか世界知の才覚を持つ存在。

 なんて知ってビックリしたわー」*

「…ほんと、もっと頼ってもいいんですよ?

 ママ?」

「いーの。

 あなたはあなたの好きなように、

 そして幸せの為に、その力を使いなさい。

 アタシは困ったら必ず頼るわ。

 さ、早くしないと、味見できないわよ?」*

「あ、そうだった!

 頑張ってきまーす!」

「ふふ」


#オカ魔王と勇者とポテサラと


オカ魔王:四天王全員、

     事情があり元孤児現養子

     四天王の才能は拾った後に判明


四天王:魔王に永遠の忠誠を誓っている


四天王知の天魔:世界から知識を得られる

        究極の才能を持つ

        戦闘能力は低目だが、

        支援や妨害が得意

        みかんポテサラ大好きっ娘


勇者:出番ありませんでした


ポテサラ:みかんいりも美味しいよね


23


「ちーっす、魔王倒す。

 あ、ポテサラたのむわー」*

「あーら勇者チャン。

 今日は早い時間じゃないの?」

「この前の大騒ぎのおかげでな。

 王様連中は終わらない会議。

 勇者は待機命令、で、暇だから来た」*

「あー、うちの子達のアレ?

 やりすぎたわー。被害出たかしら?」*

「うんにゃ。

 地形変わったけど、大して」


24


「山が一つ抉れて山脈が1つ誕生。

 それぐらいじゃ、大した事無いわね?

 あー、よかった」*

「スケールが大きすぎ。

 勇者の俺でも未だに現実感ないわ。

 サンドボックスゲームでもやらんわ。

 あんな異常な整地と地形改造」*

「ふふ、そうねー。

 うちの四天王の知ーちゃん。

 そういうゲーム好きで夜中まで遊ぶのよね」*

「あの娘?へぇ」


25


「あまりにも凝り過ぎてね。

 リアルで再現しようとするのよね。

 今回は予想以上に再現を越え過ぎたみたい。

 ゲームの方を修正中よ」*

「ちゃんと寝る様にいってね?

 お、ポテサラ、今日は…?

 ポテトにポテトときどきポーク。

 で、オニオンそしてポテトへ…?

 どした?これ?」*

「お野菜が手に入らなくて手抜きポテサラ」


26


「あ。

 王様どもが、対策とか抜かして、

 流通止めやがった影響だな」

「やっぱり?

 いつも来てくれる最前線の村の道具屋さん、

 都からの流通が無いって困ってたわね~。

 私はお野菜が無くて困るわ~」*

「魔王が一番困るのが野菜…

 って最近の魔王は菜食主義平和主義か?

 オィこら?」*

「ポテサラ以上の望みは今は特に無いわよ?」*


27


「…ニンジン、キュウリがない。

 イマイチ…てか、ポテト料理じゃね?

 これじゃ」*

「んー。

 だから本当は今日、出そうか迷ったのよね。

 味付けは知ーちゃんから合格って貰ってるの。

 でも一つ、何か欲しいわよね」*

「…お、これ、使える?

 南の迷宮で倒した植物魔獣から、

 レア枠で奪ってきたんだけど」*

「これ…」


28


「パイナップル。使えそう?」

「使えるワ!

 ありがとー勇者チャン!嬉しいっ!」

「ぐががが、首!

 首がががが!?離して!?

 折れる!?HPが残りぐがっ!?」*

「あら?

 …あ、あら、つい…メンゴメンゴ♪」

「危うく即蘇生地点まで強制帰還だったぜ…。

 その場でHP1で復活出来るスキル…。

 ホントあって良かったわ…」*


29


「ほんとごめんなさいね~。

 はい、極上級世界樹の水、おわびでタダよ」

「ぐびっ!うまー!生き返る!

 いや生き返ったけど!極上は一味違うねぇ」

「ふふ、それは良かった良かった。

 じゃぁちょっとだけ待ってね?

 パイナップル切ってくるわ」*

「…ママー?

 今日は眠いからお仕事無しでー…

 って勇者ァ!?」*


30


「お、四天王のちんちくりん知ーちゃん!

 ゲームのし過ぎは魔王ママが心配してたぞ」*

「知ーちゃんって呼ぶなバカ勇者ァ!

 馴れ馴れしいんだよ!まったく!」

「あらら、知ーちゃん!

 そんなカッコで出てきちゃ駄目っていってるでしょ?

 はぁ、もう…」*

「お客さんいるなんて!

 しかも勇者来るなんて聞いて無いっ!」*


31


「こちらとらヒマになってんでなー。

 四天王のこの前の伝説のアレ。

 王様連中、世界の破滅とか慌てて、

 自分の国だけでも生き延びようと、

 全然終わらん会議しとる」*

「まったく…

 計算上、物理的にどの国にも、

 影響は出ないようにしたというのに…

 ほんと、失礼な」*

「いやー、あれは流石にビビるわ。

 俺は最前線の近くで見たかったけど」*


32


「えっ…見たかった?」

「だってよー?

 魔王四天王が全力を使ってよ?

 ぶっぱなす最強技じゃん?

 ここだと使ってくれないからさ?

 いや、すっごく見たかったなーって」*

「…そ、そうですか、当然でしょうね。

 四天王の最強技ですからね。

 魔王ママには至りませんが…。

 美しき破壊と再生は芸術級!

 と、自己賞賛しちゃいますから、ええ」*


33


「あの広域破壊攻撃…。

 俺の最強の広域破壊技とどちらが上か?

 是非にも、試したかったなぁ」*

「ッ!?ふ、ふん!

 単独勇者の広域必殺技なんて…」*

「知ーちゃん?

 勇者チャンの広域破壊技…。

 四天王と結構いい勝負よ?

 甘く見ちゃダメ駄目よ」*

「ママがそこまで言うほど…?

 こんなブラック待遇で?

 終末を待ち望む?

 くらーい目をした勇者が?」*


34


「…魔王、ちょっとお酒、飲むわ…」

「もう、知ーちゃん!

 そういう事は言っちゃダメって言ってるでしょ?

 お客さんの事は良い所を見つけて褒めなさいって。

 お酒弱点の勇者チャンに飲ませたら…。

 それは大変なのよ、もう」*

「あ、その…。

 ごめんなさい…すいませんでした。

 知の天魔であろう私が、酷い事を…その…」


35


「いーのさー。

 仲間はいまや家庭持ち。

 一緒に旅に出てくれと頼みに行こうとしたら。

 もうすぐ三人目が生まれるとか?

 新築の家を立てたとか?

 浮気がバレて魔王討伐前に?

 奥さんに危うく暗殺されかけて仲直り?

 とか、うらやましくないもん…。

 …ないもん…アト、オキャクサンノマエデシカッチャダメ…」*

「いけない、やっちゃいけないわね」*

「勇者、結構…重症…?」*

「ほら、知ーちゃん、お相手」


36


「えー、でも…」

「ダメよ、さっきの失言ペナルティ。

 お着替えはしなくていいから。

 奥のテーブルでお話でもして慰めてあげなさいね。

 ほら、大盛りポテサラ改パイナップル入り。

 あなたも食べていいから」*

「このパイナップル…もしや!」

「勇者チャンが持ってきてくれたのよ?

 今日のポテサラが寂しいからって」*


37


「…ほらほら、勇者さん。

 お詫びにお話聞いてあげますから。

 ポテサラもあります。

 飲み物はノンアルコールで。

 ほら、あっち行きますよー」

「うっうっ…優しさがほしい…」

「ちゃんとケアしてあげてね?

 天才な我が娘?」*

「わ、分かってます。

 ちゃんとケアしますよ、もうママったら」

「ふふ、全く…」


38


「力の魔天、ただいま帰還した…!

 首尾は上々であった」

「パワーちゃんお帰り。

 地形は無事に戻ったようね?」*

「山脈は適度に崩して鉱石を露出させておいた。

 しばらくすれば鉱山が出来る。

 やがて経済は再び活気を取り戻すであろう。

 パワーこそ力!景気こそマネー!」*

「ありがとねー、パワーちゃん。

 ポテサラ食べる?」

「ありがたき幸せ」


#オカ魔王と勇者とポテサラと


オカ魔王:四天王は可愛い子達


知ーちゃん:知ーちゃん言うな!

      と、本人


勇者:今日は帰りが遅くなるかもしれない


力の天魔:これから看板出して出勤開始


ポテサラ:パイナップル入りもおいしいよね

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#オカ魔王と勇者とポテサラと うゆま@豆腐卿 @uyuma

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