エピローグ

 ヤハトラから一人の青年が地上に送られた。

 彼は……娘を救うための旅に出る。


 ――一つ目。ジャスラの涙の雫を可能な限り集め、結晶化して浄化を促す。

 ――二つ目。パラリュスの他の国に旅立ち、浄化の能力者を見つける。

 ――三つ目。パラリュスの他の二つの国を回り、三種の神器を集める。


 二つ目と三つ目を成し遂げるためには、海を渡る手段が必要であり……果たして可能なことなのかもわからず、命の危険もある。

 青年は、まず一つ目を達成するための旅に出た。



「……大丈夫でしょうか? 国中をくまなく探し、雫を拾い集めるというのは……何とも途方もないことと思いますが……」


 青年を見送った神官が心配そうに呟いた。


「……不可能ではないだろう。何しろ……」


 ヤハトラの巫女が神殿を見上げた。


「三柱の女神と三種の神器に愛された男……だからな」



   * * *



 神社の大木の前に……赤ん坊を抱えた初老の男が立っていた。


「……中平さん、でしたかな?」


 社から出てきた老人が男に挨拶をした。


「確か、大学生の息子さんと……」

「……すみません。ちょっと……急に旅立つことになりまして」

「……」


 老人は何も言わず……庭の大木を眺めた。


「何かに呼べと言われたような気がして……お呼びしたんですがのう」

「……」


 男は黙って大木を見上げた。


 やはり、不思議な力を帯びている気がする。

 再びあの穴が開くとしたら……やはりこの樹なのかもしれない。


「そちらはお孫さんですかの?」

「ええ。……それで、定年も間近ですし、こちらに引っ越してこようかと思いましてね。環境が素晴らしいな……と思いまして」


 男はそう答えると……深呼吸した。

 男に抱かれていた赤ん坊が……大木に向かって背伸びをするように両腕を伸ばした。


 ――いつかまた会える未来を、信じて。





                        ~ Fin ~





Continue to 「Shojo no mikata」・・・






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『想い紡ぐ旅人』※同一世界観の「テスラ」の物語

 → https://kakuyomu.jp/works/1177354054886866619

『あの夏の日に ~俺たちの透明な二週間~』※同一世界観の「ウルスラ」の物語

 → https://kakuyomu.jp/works/1177354054889707757


そして物語は、『旅人たちの錯綜』第1部『少女の味方』へと続きます。

 → https://kakuyomu.jp/works/1177354054891791115

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漆黒の昔方(むかしべ) ~俺のすべては、此処に在る~ 加瀬優妃 @kaseyou

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