宿命か運命か~む~

「まだ少し肌寒いですが、みんなで庭に出ませんか?」


 まーくんが食事を終えた頃、弥勒みろくが提案を投げかけると、「それじゃあ、私は毛布持ってきますね」とあまねは席を立ち、まーくんは子供用の椅子から、飛び降りた。


 元々、窓際にいた純次の隣まで移動した弥勒みろくは窓を開け、足元に3足が青色でお揃いのサンダル、2足は同じ柄だが水色のサンダルを並べた。


 「あまねはすぐ毛布を持ってきてくれることでしょう。先に外に出てましょうか」弥勒みろくはそう言って外にでると、「パパ! ずるい、ずるい、ほら、あーら! 早く行こう!」と、まーくんはあらうの手を引っ張った。


「あはは! まーくん、力強いなぁ」


 晴れ渡る春の夜空には数えられない程の星が浮かんでいる。都会から少し離れただけでも、まだこれほどの数の星を観ることが出来る。


 過去に純次とあらうは海外、それも何もないような地域を旅した経験があるため、これ以上の夜空を観ることは普通だった。だが、ここ数年は都内にいることが多かったため、久しく見ていなかったことから、この光景に心奪われた。


 「まーくん。この空にはね。ある秘密が隠されているんだ。それがまーくんには分かるかな?」空に指を差したあらう


「え! なに! なに、なに! 全然わかんないよ」

「全然、考えてないじゃん! ほら、まずは空を見て、星をよく見るんだ」あらうが北の空に指をさすと、つられるようにして、まーくんは視線を北の空へと移した。

「いいかい? あの辺りの星は他の星と比べて、強く輝いているんだけどわかる?」

「……うん」

「あの星をこうして繋げると、ひしゃくに見えない?」

「……? ひしゃく?」

「あー。スプーンだね」

「見える!」

「よし! それがしっぽだ」

「え? しっぽ? しっぽって動物の?」

「そう! これをこう伸ばして、ここと、ここを結ぶと……」

「……いぬみたいな、動物っぽいね」

「これはね。熊なんだ」


 「え! 熊なの? 全然見えないよ」頬っぺたを膨らませるまーくんの頬を人差し指で押し込み、「まぁそうだよね」とあらうはからからと笑う。


 「まー坊。あの熊にはな、子供がいるんだぜ」後ろから純次の声が、話を続けた。


 「え! どこ……って、嘘じゃないよね」まーくんは疑いつつも、気になって仕方のない様子。


「嘘じゃあないぞ。なぁ……弥勒みろく

「ははは。そうですねぇ。純次の言う通り、この星空には子熊が隠れています。良い子には見えるかもしれないですねぇ。まーくんは良い子かなぁ?」

「えー! そんなぁ……あらぁ。おしえて、おしえて!」

「仕方ないなぁ。さっきの熊の位置は大丈夫だね? その上に視線を動かしてごらん」

「ん!」


 「力んでも、見やすくなったりしないぞ」純次はからかうように、茶化した。


「もう、じゅんさんは黙っててよ」

「はいはい」

「熊の上に、輝く幾つかの星を繋げていくと、さっきのスプーンみたいな形になるのがあるんだけど……」

「……」

「……」

「……あ! わかった!」

「すごいな! どれどれ」

「あの凄く光ってるやつから、こうつなげると」

「そうそう! そうだよ! すごいなぁ。良く見つけたね」

「だろ! ぼくはパパの子だからね」鼻高々に腰に手を当てて、自慢するように弥勒みろくを見ると、弥勒みろくはまーくんの元へと近寄り、頭を撫でまわした。「すごいなぁ。さすが、私の子です」


 すると、毛布を腕いっぱいに抱えたあまねが窓際から割って入った。「もう、私の子供でもあるんですからね!」


「はは。いい家族だね。じゅんさん」

「そうだなぁ。俺も結婚すっかなぁ」


 「そうしなよ。僕に構うことなく、いつでもね」あらうは悪戯な笑顔でこれに「できるものなら……ね」と付け加えた。


 「あら。てめぇ!」あらうに向けて放った純次の攻撃をことごとく避け、「ついに僕もじゅんさん超え……」と調子にのったあらうの腹部に純次の一撃が入る。


「まだまだだな。あらぁ」

「う。大人げない……さっき食べたもの出ちゃうよ」 


 悶え苦しむあらうを横目に「そういえばよ。弥勒みろくはいつこの家買ったんだ?」と問いかけた。


「え。あれ、言ってませんでしたっけ? 先月ですよ」

「そんな直近の話だったのか」

「2月頃。雪が降ったのを覚えていますか?」

「あ。あぁ。あの時か。都内も大混乱で大変だったからなぁ。よく覚えているよ」

「あの時、私達家族はここにいたんです。その時に見たこの庭の美しいことと言ったら、最高でしたぁ。ピンと来たんですよね。これ以上の家に出会えることはないだろうと……」

「そういえば、付き合う前のあまねに、『晴れと雨どっちが好きですか』って聞かれてた時に、『雪です』とか答えてたな」

「そうですね。でも、それはあまねが2択しか用意してないのが悪いんですよ。今同じ質問されても私は迷うことなく『雪』と答えますね」

「意外と、頑固だよな」

「そうかもしれませんね。頑固かもしれません。家を見に来たときに決めたんです。ここにあまねとまーくんと3人で住んで、次の冬には雪化粧されたこの家で3人で過ごそうと……」


 「いいじゃねぇか」


 「じゃあ、その次の年には、また僕たちも呼んでよ」復活したあらうの要望に「もちろんです。ですが、そのためにも、今の事件を解決して、次の冬までには平和を取り返しておかないと、美しい景色も台無しになってしまいます。純次、あら、今一度、お願いします。平和のため、力を貸してください」


「かしこまりやがって、あたりまえだろ。友達なんだからよ」

「そりゃあ、当たり前だよねぇ。お金もらってるし」

「あら、お前。それは言わねぇ約束だろうが!」

「知らないよ! そんな約束!」

「あらぁ。パパはね。いつもお仕事頑張ってるから、大変なんだ。でも、僕じゃ力になれないのはわかってる。だから、疲れてるパパを何かあった時には、守ってあげて欲しいんだ」


「そっか。弥勒みろくさん大変だもんな。ちなみにそれは、依頼ってことでいいかな?」

「うん! 依頼する!」

「よし! 頑張る弥勒みろくさんと、パパ想いなまーくんの依頼受けた!」まーくんの頭を力強く撫で回し、あらうが答えると、純次が「守ってもらうのはあらの方だろうが」と、横槍を入れた。

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繰り返される〜華見〜 ニコラウス @SantaClaus226

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