宿命か運命か~い~

 広々としたリビングには円卓があり、均等に並べられた椅子からは、持ち主の几帳面な性格が見て取れる。


 「今日のような晴れた日には、ご覧の通り、月も綺麗に見えるし、静かにしていると、川のせせらぎや虫の音が聞こえてきたりと、凄く癒されるんです」あまねは得意げに説明を加えつつ、食事の用意している。


「こんなことを言ってますが、都心で暮らしていたあまねは、田舎で暮らすことを凄く嫌がったんですよ」

「もう。あなたったら」


 微笑む弥勒みろくは普段の厳しい顔つきではなく、緩んだ頬から幸せが滲み出ている。


「さぁ。お召し上がり下さい。と、言っても、主にあらになりますかね。まーくんもいっぱい食べて下さいね」


 円卓に並ぶ皿には、肉や野菜が綺麗に盛り付けられ、1人1人の前には肉を焼くためのプレートが置かれた。


 「いただきます!」あらうとまーくんは元気いっぱいに答えて、一斉に食べ始めた。


それぞれが、手元に用意されたトングで肉を摘まみ、プレートの上で焼き始める。焼ける音が響き、匂いが部屋を包む。


「くー! これだよ。これ! ありがとう! 弥勒みろくさん!」

「いえいえ、あらにはこれからまだまだ働いて頂かなくてはいけないですから」

「まかせてよ!」


 たくさん用意された肉が瞬く間に消えていく。肉をしっかりと焼いているのか、そう疑われるほどの早さであらうの前の前から肉は消え去る。


「いやー! 美味しすぎたー!」

「あら……。ちゃんと焼きましたか?」

「まぁ、肉なら生でも大丈夫じゃないですかね?」


 信じられない量の食べ物を一瞬で食べつくしたとは思えない、爽やかな笑顔で返すあらうに対して、言葉を失った弥勒みろく。その横に座っていたまーくんが声を上げた。


 「あら、やるな! 僕よりもたくさん食べるなんて、すごいや」まだ、口いっぱいにご飯を含みながらまーくんが話すと、「お行儀が悪いですよ」と、弥勒みろくが注意する。


 「まーくんもいっぱい食べて、大きくなりなよ? 大きくなるには、よく噛んで、よく食べること、これに尽きるよ!」あらうがそう言いうと、元気いっぱいに「うん!」まーくんは満面の笑みを浮かべた。


 「それにしても」お腹が満たされ、満足した様子のあらうは、思いついたように切り出した。


「こんなところで、『これ』お目にかかれるなんて、弥勒みろくさんさすがだよ」

「あら、『それ』を知ってるんですか?」

「もちろんだよ」

「『これ』とか、『それ』とか、一体なんの話してんだ」

「『これ』だよ。『これ』」そう言って、あらうが指さしたのは、使っていた食器だった。

「『金丸こんまる』の印が入った食器なんて、普通の一般家庭では、まず使わないね」

「なんだその『金丸こんまる』ってぇのは……、なんか下品だな」

「じゅんさんが下品だよ。最低だね。てか、しらないの? ありえないよ」


 眉をひそめるあらうの代わりに、弥勒みろくが答えた。「これはですね。金剛社製の製品でなんですよ」


「……ん。どこかで聞いた名前だな」

「今回の被害者の一人、『金剛こんごう つくる』の父、『金剛こんごう たける』の会社が売り出しているお皿ですから」


 「あー。なるほど、なるほど。そういうことか」納得の様子の純次に、あらうが説明を加える。


「ちなみにね。この会社は倒産したんだよ。一人息子を亡くしたことで、父である金剛社長の気が狂ったとかで、一時的に世間を騒がしたりしてたね」

「ほう。詳しいな」


 「いや、なかなか有名な話ですよ。いい社会人なんだから、しっかりしてくださいね」弥勒みろくが肩を竦めると、「そーだ。しっかりしろ!」と、まー君が声を上げた。


「まーくんにも言われちゃ、形無しだね」あらうが純次を小馬鹿にしたように笑いかけると、弥勒みろくも失笑していた。


 「け。ほっとけ」――そうか。息子が殺されるってのは、気が狂うほどのことか。


 純次は不貞腐れるように、席を立つと窓際へ向かった。窓から空に浮かぶ月が綺麗に見える。


 純次は『柄にもない』そう思いつつも、昔亡くした友を思い出していた。


 ――安心しろ。あらは元気だ。

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