第2話 対タータカン
コンビニで暇を潰していると、ポケットに入れていたブルー端末が震えた。街に怪人が現れたという連絡だった。誰も居ない場所へ移動する。
「変身」
言葉に反応したブルー端末から光が放たれ、一瞬にしてヒーロースーツを着用した。左腕に装着されたブルー端末を確認する。怪人が現れた場所は今自分が居る場所からそう遠くは無かった。
「はぁ……行くか」
全く気が乗らないがとりあえず怪人の元へ飛んで行った。空からだと砂煙が舞っているのが良く見える。黄色い光線が空を裂く様に放たれた。イエローが先に到着し、怪人の相手をしているようだ。イエローは雷のヒーローパワーを宿しているので、放つ光線は電気を帯びている。
俺は空のヒーローパワーを持っているため、空気を操り攻撃が出来る。故に空も飛べてしまう。イエローの攻撃が当たらない所に降り立ち、辺りに逃げ遅れた人が居ないか確認をした。
すると木の影に男の子が体を丸めて隠れているのを発見した。あの場所ではイエローの光線が余裕で当たってしまう。救助に向かっていると、イエローが男の子の隠れている木に向かって光線を放った。
「くそが!」
両手からパワーを放ち、イエロー光線によって吹き飛んで来る木々が男の子に当たる前に弾き飛ばした。そして回避が間に合わない俺は男の子に覆い被り、弾き飛ばせなかった木々とイエロー光線をヒーローパワー全開にして体で受け止めた。
ヒーロースーツを着ているので直接体が傷付く事は無いが、激しい衝撃はそのまま受ける。一瞬息が出来なくなり、意識が飛びそうになったのを何とか耐えた。
「……君、大丈夫か?」
震える男の子に問い掛けると小さく頷いた。ほっと胸を撫で下ろし続けて口を開く。
「安全な所に連れて行ってあげるからね。目を瞑ってしがみついてくれるかな?」
男の子は赤くなった目をギュッと瞑り、俺の首に手をまわして力強くしがみついた。それに応える様に、俺も力強く抱きしめその場から飛んだ。
現場から数キロ離れた所に避難所が出来ていた。男の子を怖がらせない様にゆっくりとそこに降りる。ヒーローが現れた為に若干パニックになったが、それを無視し警官に男の子を預けた。
「もう大丈夫。心配いらないよ」
軽く頭を撫でると、男の子は俺に抱き付いた。警官が男の子を宥めるが、離れようとはしない。
「イエローに助けてって言ったのに助けてくれなかった」
男の子は声を震わせながら訴える。周りの人々がその言葉に動揺している。
「……怖い思いをさせてごめんね。イエローも皆を守ろうと必死だったんだよ。だからイエローの事は責めないで欲しい。……僕がもっと早くに行けたら良かったんだ。責めるなら遅れたブルーを責めてくれ」
そう言うと、男の子は大きく顔を横に振った。
「ブルーは体を張って守ってくれた! だからブルーは悪くないもん! イエローは嫌いだけどブルーは好き!」
「……ありがとう。僕はもう行かないといけない。ここに居れば安全だからね」
「うん!」
「ではこの子をお願いします」
「はい! お任せ下さいブルー様!」
警官に再度男の子を預け、空高く飛び上がった。
「ブルー様ねぇ……。神様、仏様、ヒーロー様ってか。笑える」
あの男の子とのやり取りを聞いた人々は二つのグループに別れる。一つは、イエローが自分達を守る為に必死に戦っているのだと感動するグループ。もう一つは、イエローは近くに居た男の子を助けずに戦いを選んだ事に対する不信感を持ったグループ。
こうして少しずつヒーローに対して不信感を持つ人が増えれば良い。ヒーローを信じ切ってはいけないのだから。怪人の元へ着くと既にヒーロー四色が揃っていた。
「遅いぞブルー!」
「油を売ってたんじゃないでしょうね!?」
これだから益々ヒーローが嫌いになる。民間人の安全が第一なのに、こいつらはただ怪人を倒せば良いと思っている。五色集まってミラクルトルネードで怪人を大爆発させれば良いと思っている。
言うだけ無駄なので「ごめん」と一言言い放ち、四色の横に並んだが何なんだこの状況は。イーマンも全く片付いていない。ヒーロー四色が居ながら数が減っていないとはどういう事だ。
「よおし! 五人揃った俺達の真の力を見せてやる!」
各々が気合いを入れ、物凄い早さでイーマンを倒して行く。倒せる癖にわざと手を抜いて戦っていたという事か? この四色はふざけているのだろうか。虫の居所が悪い俺は憂さ晴らしの為にいつもよりも力を込めてイーマン殴り飛ばし、蹴り飛ばして行く。
「ブルーも気合いが入っているな!」
「私だって!」
殴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られ、イーマンを倒している勢いで四色を殴り飛ばそうとしたが、上手く避けられ未遂で終わった。
「イーマンはもういないぞ! 後はお前だけだ! タータカン!」
「覚悟しなさい!」
レッドとアクアが並びその両隣りにイエローとグリーンが並ぶ。俺は少し離れて並んだ。いちいち整列する意味は何だ。……まさかテレビ映りを気にしてなのか? あり得ない話では無い。
タータカンが大きな翼を広げ飛び上がる。翼を羽ばたかせる度に、羽が刃となってヒーローに降り注ぐ。それに当たらない様に避けるが、俺以外の四色は避けきれずに思い切り攻撃を受けていた。
こんなのもろくに避けきれないで、良くヒーローなんかやっていられるな。そう思っていると自分の腕に羽が触れてしまった。反射的に振り払おうとしたが、羽はその場で瞬時に爆発した。俺自身も人の事は言えない。
「いっ……たくない……」
衝撃はあるものの、ヒーロースーツのおかげなのか然程ダメージは無かった。これならば我慢出来なくも無いし、なによりこちらから攻撃を仕掛ける事が出来る。反撃をするために羽を避けつつ、たまに羽にわざと当たり爆発を起こしながらその勢いを利用しタータカンとの距離を詰める。
羽を避けようと派手に動き回り小規模な爆発が連発するヒーロー四色に、タータカンの注意が引き付けられている。
「……今」
足の裏にヒーローパワーを集め一気に放出する。圧縮した空気をまとった右ストレートが、反応に遅れたタータカンの鳩尾に食い込んだ。それと同時に、辺りに衝突音が響き渡る。
「ブルー!?」
突然の行動に他のヒーローが驚きを露にする。衝撃波によって舞っていた羽も吹き飛んでいた。
「どこだブルー!?」
右ストレートで打ち上がったタータカンの先回りをし、踵落としで打ち返した。落下位置は下に居るヒーローを狙った。地上で辺りを見回す四色の元へ、空から物凄い速さでタータカンが落下して行く。
「きゃあ!」
「なっ、何だ!?」
「皆大丈夫か!?」
「ブルーは!? ブルーはどこ!?」
混乱しているヒーロー四色を、俺は空から冷ややかな目で見ていた。
「ちっ……」
どうやらギリギリ当たらなかったらしい。しぶとい奴らだ。これもヒーローパワーが関係しているのだろうか。誰と戦っているのかと疑問が過るが深く考えず、ヒーローの元へと戻った。
「ブルー! 大丈夫か!?」
「もう! 一人で無茶しないで!」
「心配させんなよブルー!」
「無事で良かった……」
周りに集まり一喜一憂する四色を無視し、土埃の中にいるタータカンへ視線を向ける。あれだけでは流石に大爆発は起こせなかった。ゆっくりと体を起こしたタータカンを見た四色はそれぞれ気合いを入れる。
「なっ! まだ倒れないだと! 皆、今がチャンスだ!」
「ええ!」
「しぶとい奴!」
「よし!」
チャンスなんていくらでもあっただろうに、明らかに弱ってる所を攻めるのか。思わず笑ってしまった。それぞれの武器をレッドの武器に重ね、ヒーローパワーを集中させる。
「くらえ! ミラクルトルネード!」
顔を上げたタータカンは逃げる事が出来ず、ミラクルトルネードが直撃した。そして大爆発が起こる。……はずだったのだが大爆発はおこらず、ミラクルトルネードと共にタータカンは遥か彼方へと吹き飛んで行った。
「正義は勝つ!」
いや疑問を持てよとツッコミを入れそうになるが、体が勝手に勝利のポーズを決めた。そしてヒーロー五色は秘密基地へ転送された。リビングの様な待合室に転送され、いつものようにロッカールームへ向かう。
「待ちなさいよ!」
ドアノブに手を掛けた所で、アクアに呼び止められた。マスクで顔が見えないのを良い事に不機嫌な表情を露骨にする。
「何ですか?」
「何ですかじゃないわよ! 何で一人で行動したのよ!」
「あのまま攻撃が止むまで待つのは賢明じゃない。それに長引かせるのも住民にとって迷惑だ」
早ければ早いほど建造物の被害も抑えられる。
「だからって心配するじゃない! ねぇ? イエロー?」
「えっ……うん。凄く心配した。このまま居なくなっちゃうんじゃないかって……怖かった」
出来る事ならこのまま居なくなりたいが。ヒーローを辞める事が今の俺の願いだ。
「俺の心配より一般人を心配しろよ」
思っていた事がそのまま声に出して言ってしまった。いつもは自分を僕と呼ぶキャラを演じていたため、俺と言った事に目の前の奴らは驚いていた。そして、黙っていたレッドが口を開いた。
「なぁ、皆。確かにアクアの言うように、ブルーの単独行動には問題がある。一人が勝手に動き、それに気を取られている間に仲間が危険に晒される可能性がいる。だがしかしだ。それでも、そのおかげでタータカンを倒せたのも事実だ」
「レッド……でも、自分を犠牲にするようなあんな攻撃は認められないわ」
先程の勢いは無くなったものの、ソファーへ腰を下ろしたアクアは不機嫌そうに顔を背けた。
「ねぇ、もう良いじゃん! タータカン倒せたんだし。結果オーライって事でさ。所で上松さんまだかな? 今日遅くない? いつも待ってくれてるのに」
「うるさい! グリーンは黙ってなさい!」
この場を終わらせようとグリーンが空気を読まず述べたが、それに対してアクアが噛み付きグリーンは拗ねた。俺としては早く終わって欲しかった。
「……なぁブルー、今後はなるべく気を付けて欲しい。俺達五人で一つだろ?」
色々言いたい事はあるが、早くこの場から立ち去りたいため「分かった」と言い残し部屋を後にした。
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