第16話、ふははははあ! 僕の巨人は無敵なのだぁ! 平伏せ雑魚め!

 


「焦らず慌てずに避難しろ! ……そこ! 横入りするな!」


 生徒会と風紀委員会の総出で生徒を順に各シェルターに避難させる。


 しかし厄介な事に、剣の演習場からはみ出したあのゴーレムの頭部が生徒達の恐怖心や危機感を煽ってしまい、訓練の倍以上の時間がかかってしまっていた。


(これは……私も向かうか? しかし、ここの守りが……)


 自覚しているよりも焦っているのだろうか。


 生徒会長セレナ・ノートハートにとっても当然にあのゴーレムは初見なのだが、学院長が未だに破壊出来ていないと言う事は、それだけ常軌を逸した代物という事に他ならない。


 生徒を代表するが故に表情には一切出せないが、最悪の想定が頭を過る。


 しかしこのような所で死ぬ訳にはいかない、決して。


「……本当に大丈夫なのでしょうか……」

「会長……」


 普段は滞りなく職務を遂行してくれる頼もしい生徒会のメンバーでさえ、不安を堪えきれないようだ。


 私が意思を固め、険しい顔をしていたのもあってか、皆顔色が悪い。


「無論だ。学院長は今までにも幾度もこのような事態に直面し、それを打破して来た。それに――」




 ――うおおおおおおー!!




「……何事だ」

「か、会長! アレっ! あれを!」


 地下シェルターへの入り口に列をなしていた生徒達から、鼓膜が割れんばかりの歓声が上がる。列を整理していた役員達までも、飛び跳ねながら歓喜している。


 この場にそぐわぬ光景に、海外で見るカーニバルが思い起こされる。そんな呑気な自分を叱責し、その視線を追う。


 そして、振り向いた先には……。


「……ふっ。……さぁ! 【炎の魔法使い】様が来てくださった! もう安心だ! それよりも! 君達は足手まといになりたいのかっ! 早くシェルターに避難だ!」


 天高くそびえる〈炎の巨人〉が、気付かぬ内にゴーレムを遥か上空から見下ろしていた。


 この都市のどのビルよりも高く、一目で尋常では無い質量を持っていると分かる力の塊のような存在が今、この世に生み出された。


 遅れて届く熱気は凄まじく、炎を直接肌に当てられているかのようである。


「会長の言う通りです! 私たちに出来るのは、迅速な避難だけですよ! ほら、早く進みなさい!」

「列を乱すな! 進め!」


 役員達の声までも弾んでしまっている。かく言う自身も、まだ時期尚早だと言うのに胸を撫で下ろしてしまった。


 生徒会や風紀委員に周りから押し込まれるように列に戻され、希望を取り戻した避難が再開される。


 もし、まだ心配する事があるとすれば……。


「……あれ程の巨人の攻撃は、一体どれ程の威力なのだ。まさかとは思うが、島ごと……」







 ♢♢♢






「……炎の巨人……」

「正確には、〈終炎の巨人〉です。兄さんが、……色々あって邪龍をほふった時に使用したものです」

「……これは、凄いのぅ……何もかもが……。え、これ、この都市無くなるんじゃね?」


 皆が皆、雲を衝く巨大な〈終炎の巨人〉を仰ぎ見る。


 身体中に炎をほとばしらせ、内側からマグマのような輝きが脈動させる“終焉”をしかと目にする。


 剣の演習場を半壊、付近の建物もあまりのスルトの熱気で熔解させている。


「じ、じゃあ、やっぱり……零が…………【炎の魔法使い】様……?」

「そうですね。いつの間にやら、そう呼ばれていました」


 あの日と同じく、神話にある巨人を現実に降臨させる者は即ち、その証であった。


「う、嘘……嘘……。嘘でしょ……? 山田君が、【炎の魔法使い】なんてっ……」

「ただの通り名に怖気付いたのですか? 炎の魔法使いが相手でも問題無いのでしょう? 何を怯える必要があるのですか。堂々となさい。ですが、まずは……〈終炎の巨人スルト〉」


 終炎の巨人がこちらに歩を進めていたゴーレムの頭を、まるでソフトボールでも掴むかのように鷲掴みにして持ち上げてしまう。


 凄惨にも思える圧倒的な光景に陽毬は顔を青ざめさせ、ペタンと女の子座りで尻餅をついている。


「不思議ではありませんか?」

「な、なにが……」


 突如として現れた世界最強が、淡々と訊ねる。


「僕が、大昔のゴーレムを知っている事がです」

「…………」

「公式発表では大戦終了時から国による度重なる大規模作戦で全機破壊されたとされていますが……。数年間暴れ続けた古王の金剛兵タイラントゴーレム……実際には倒す事は叶いませんでした。が、先人の方々は知恵を駆使して何とか封印する事には成功したのです」


畏れによって沈黙させられる陽毬へ、大した関心もなさそうに淡々と告げる。 


「ですが、現在この地球上にあのゴーレムは……この一体しか存在しません。……何故だと思いますか? そして、僕が何故そのゴーレムを知っているのか……」

「…………」


 答えは単純明快なものであった。


「――僕が破壊したからです」

「ひっ!?」


 思わず口に手を押し付け悲鳴を無理矢理抑え込み、愕然とした表情で眠たげに見下ろす零を捉える。


「お願いできないかと各所から頼まれたもので、旅行のついでに世界を飛び回り、封じられたゴーレムを端から破壊しておいたのです。旅行代もタダ、期待外れのガラクタを壊す手間を省けば優雅なものでした」


 必要最低限の人材のみで、秘密裏に七カ国合同で行われた極秘案件であった。


「1年前のやつじゃな。そう言う事情じゃったのか。国がえらい騒いでおったわい」


 七天魔導を有さない、もしくは支配下にない国家は新たに誕生した【炎の魔法使い】に縋った。


 イグニス国軍経由で粘り強い交渉の末に、破格の依頼料と特別優遇と引き換えにして事は行われる。東南アジアから始まり、二度の世界的武力衝突を経て旅はつつがなく終了した。


「そんな事より、兄さん。そろそろ限界です。早く片付けて下さい」

「儂の方もキツいのぅ……。老骨には堪えるわい。早う幕を引いておくれ」


 詩音は涼しげな顔に汗を流し、ユルゲンも汗だくに、零を除く全員を囲む結界をたったの2人で構築、スルトの熱気に全霊で耐えていた。


 当然ながら零に影響は無いが、この結界が無ければ全員が瞬時に蒸発してしまう。


「分かりました……。――では、〈終炎の巨人スルト〉」


 硬質な声音で、最後の古王の金剛兵であろう個体に引導を渡す。


 〈終炎の巨人〉がおもむろに、頭部を掴んでいた左手とは逆の手でゴーレムの胴を掴む。


 そして、






 ――世界の終わりを告げるかのような衝撃が生まれた。










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七天魔導の中でも最強と言われているのに、魔法学院に通えと言われた…… 壱兄さん @wanpankun

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