転生したら驚いた!(6)

   

 問題の『門』の前に立つ、四人の冒険者たち。

 まずは俺。たぶん主人公。だから、ポジションは勇者。

 続いて、ミキお姉さん。ヒロイン枠。使用武器は、最初のところでゴブリンから奪った鞭。やはり『お姉さん』と言えば、鞭が似合う。俺の偏見かもしれないが。

 そして、ロマンスグレーのシロー。年相応に博識のイメージだが、細身の剣を手にしているので、剣士のイメージもある。彼の剣は、刃や針のような葉をした木々の山で拾ったものだから、いわゆる落ち葉なのだろう。こうして見ると、レイピアにしか見えないが。

 最後に、小太りのセイロク。特に武器はないけれど、体格が体格なだけに、素手で戦う姿に違和感はない。武闘家、あるいはスモウレスラーという感じだ。

「では、行こうか」

 年長者シローの言葉に頷き、俺は扉に手をかけた。

 扉の先で、俺たちを待っていたものは……。


「あら、またお客さん?」

「いやねえ。お呼びじゃないわよ。シッ、シッ!」

 巨大な二匹のモンスターだった。

 どちらも、二本の腕と二本の脚があるので、ヒト型モンスターなのだろう。だが、その顔は明らかに『ヒト』とは異なっていた。

 片方は、牛の頭。ちょうど斧っぽい武器を手にしているので、まさにミノタウロスだ。

 だが、もう片方は……。何だろう? 馬に見える顔だ。半人半獣の化け物で『馬』と言えばケンタウロスだが、あれは上半身が人間ヒト、下半身がウマだから、これとは逆だ。一応、武器は槍に見えるから、そこはケンタウロスらしさなのだが……。

 とりあえず、俺はこいつを逆ケンタウロスと呼ぶことにした。

 ミノタウロスにしろ、逆ケンタウロスにしろ。モンスターの性別なんて俺にはわからないが、二匹とも女言葉を使っている。どうやら、オカマ型モンスターらしい。気持ち悪い話だ。

 そんなことを考えていると……。

「危ない!」

 ミキお姉さんの叫び声と共に、俺は突き飛ばされた。

 わけがわからず、すっ転ぶ。

 だが起き上がった俺が目にしたのは、先ほどまで俺が立っていた場所で、倒れているミキお姉さん。そして、槍を突き出している逆ケンタウロス。

 唖然とする俺だったが、これだけは理解できた。ミキお姉さんが、俺をかばって、代わりにやられてしまったのだ!

「ボウッとするなよ、テツオ君!」

「こいつは強敵だぜ!」

 シローとセイロクは、早くも身構えていた。


「やあねえ、この子たち……。戦う気、満々みたい」

「なら、ちょっと遊んであげましょうか。私たちのツノに傷つけたら、通してあげる……。そんなルールは、どうかしら?」

 本気を出す気はなさそうだが、ミノタウロスと逆ケンタウロスの方も、黙って俺たちを通すつもりはないようだ。

 俺はミキお姉さんのところに駆け寄ったが、もう彼女に意識はなかった。それでも、息はしているようだから、命は取り留めているのだろうが……。

「テツオ君! ここは我々二人に任せて、君は先へ行きたまえ!」

「そうだぜ! ミキさんの面倒も俺たちがみる。約束だ!」

 シローとセイロクは、そんなことを言いながら、早速ミノタウロスや逆ケンタウロスと戦い始めていた。

 ならば!

 ミキお姉さんを残していくのは、少し後ろ髪を引かれる思いもあるのだが……。

 ここは、この世界の先輩たちの言葉に、素直に従おう!

「あら、ダメよ。勝手に行かないで! 『ツノに傷つけたら』って言ったでしょう!」

「こら、坊や! 待ちなさい! エン様に御目通りするなら、ちゃんと順番を守って……」

 ミノタウロスと逆ケンタウロスは無視して。

 俺は、戦場を素通りするかのように駆け抜けて、魔王の居城を目指した。


 こうして。

 ついに俺は、魔王の居城に辿り着いた。

 白いタイルが敷き詰められて、太い柱に挟まれた、広々とした部屋。

 その奥にある巨大な椅子に、魔王が座っていた。

 シローからは『十大魔王の五番目』と呼ばれ、モンスターからは『エン様』と呼ばれた存在が。

「何だろう、この感覚……?」

 この部屋にも、目の前の魔王にも。

 既視感があった。

 心の中がモヤモヤする。

 そのモヤモヤが、少しずつ形を成して……。

 そうだ!

 以前は、ぼんやりとして、はっきりわからなかったが……。この部屋は、あの最初の真っ白な空間ではないか! あの時、俺が神様だと思った存在こそ、今、俺の目の前にいる魔王だ!

 そう悟った俺に対して、魔王が言葉を投げかける。

「よく来たな。だが、今回のお前の冒険は、ここまでだ」

 魔王は、手にしていた武器を――バットを平たく潰したような形状のものを――俺に向けた。

 その途端。

 俺は、雷に打たれたかのように痺れて、意識を失った……。


 そして。

 また俺は、強制労働に逆戻り。

 ゴブリンたちの監視下で、石臼を回す毎日だ。

「よう! お帰り、テツオ」

「たまには良いものだな、冒険も」

「まあ、大運動会みたいなものだからなあ」

「また新入りさんが来たら、やるんでしょうね」

 ミチヤ、シロー、セイロク、ミキお姉さん、そして、名前も覚えていない仲間たち。

 途中で脱落した彼らも、みんな、ここに戻ってきていた。

 この世界で、いくらゴブリンに痛めつけられようと、俺たちに死は訪れない。

 ここでの日々は、未来永劫、続くのだ……。


 魔王と対峙した結果。

 俺は、全てを悟っていた。

 主に、二つの大きな真実を。


 まず、第一に。

 この『異世界』が、地獄であるということ。

 比喩ではなく、文字通りの意味で。


 続いて、第二に。

 あの神様が、この世界では――地獄では――『魔王』として君臨していたということ。

 つまり、閻魔大王というやつだ。


 そう。

 トラックにはねられた、あの日。

 俺は「神様に出会って異世界に転生!」と思ったものだが。

 実際には、そんな都合の良い話ではなかった。

 死後の行き先を決める裁判官――閻魔大王――の前に引き出されて、判決を受けた。その結果、天国ではなく、地獄へ送られた……。

 ただ、それだけだったのだ。


 これが、俺の経験した『異世界転生』の真実である。

 ちくしょう。

 これでは異世界転生というより、昔々の死生観じゃないか!

 こんな運命が待っているなんて。

 転生者はつらいよ。トホホ……。




(「弾波テツオの大異世界 ――転生したらどうなる――」完)

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弾波テツオの大異世界 ――転生したらどうなる―― 烏川 ハル @haru_karasugawa

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